トルコでインフレが進行し、極端な通貨安に陥っていることは各種ニュースで皆さんもご存じのとおりです。このような場合には金融政策として「利上げ」を行わなければなりません。つまりお金の価値を上げるために、流通量を絞るよう誘導するわけです。これは経済の常識的であり、どの国の当局者であっても利上げを行うでしょう。
しかし、トルコのエルドアン(Recep Tayyip Erdogan/レジェップ・タイイップ・エルドアン)大統領という人は「利上げこそ人々を貧しくする元凶だ」として頑なに「利上げを拒否」してきました。かつてMoney1でもお伝えしたとおり、「トルコの通貨安はやばくね?」と世界各国で報じられるようになったころに、機関投資家などを招き自国の金融政策を紹介し、理解を求める会合をロンドンで開催。
その席上「金利を下げる方針」を表明し、集まった人たちを唖然とさせました。
なぜエルドアン大統領は金融政策の常識にさからって「利上げを拒否」するのでしょうか? 一部の識者からは「彼がイスラム教徒であるためではないか」という指摘が出ています。特定の宗教を信奉しない人がほとんどの日本人には分かりにくい説明ですが、実はイスラムの教えでは「人にお金を貸して利子を取ることはいけない」とされているのです。
確かにエルドアン大統領のこれまでの経歴を見ると、イスラムのお坊さん(イマーム)を養成するためのイマームハティップ高校出身ですし、イスラム原理主義を扇動したとして実刑判決を受けたりしています。「姦通罪復活法案」や「公の場で女性にスカーフ着用を義務づける法案」を提出したこともあります。そのため、時にエルドアン大統領はトルコをイスラム原理主義の国にしようとする人物と見られることも少なくありません。
ここが面白いのですが、「トルコ共和国」の父としてトルコの国民から敬愛されているアタテュルク(Mustafa Kemal Ataturk)初代大統領は明確な「政教分離」を信条とし、「脱イスラム国家」になることを推進しました。その結果、トルコは近代国家になり得たのです。
今、エルドアン大統領が旨としていることは明らかに初代大統領の志とは逆行するものです。
もちろん個人の信教は自由ですが、それを国政に持ち込むことは現代のグローバルな世界とは相容れないものです。ましてや国際金融において信教は何の役にも立ちません。鎖国するのならともかく、嫌でも自国の経済を他国とリンクさせなければいけないのです。エルドアン大統領が利上げを拒み続ければ、トルコの通貨危機は続くでしょう。
(柏ケミカル@dcp)