2023年01月12日、韓国の大法院は元陸軍大佐である池萬元(チ・マンウォン)さんに対して懲役2年の実刑判決を言い渡しました。
Money1をずっと読んでいただいている方は「!」と思われるかもしれません。
「5.18」、1980年05月18日に起こった、いわゆる「光州事件」についてのドキュメンタリー映画『キム君』をご紹介した記事で登場した人物です。
池萬元(チ・マンウォン)さんをひと言でいえば陰謀論者です。
光州事件を市民が起こした「全斗煥(チョン・ドファン)独裁政権への抗議」ではなく、韓国に侵入した北朝鮮の特殊部隊が起こしたもの、と主張。インターネットや自身の著書でその「論」を世間に広めてきました。
池萬元(チ・マンウォン)さんは5.18当時に撮影された人物を、以降に撮られた北朝鮮の人物写真と見比べ、「コレは北朝鮮のこの人」「アレは北朝鮮のあの人」と断定。当時市民運動に加わった人を「光殊1号」「光殊2号」などとナンバリングしていきました。
光州事件というのは――1980年05月18日、韓国の光州市で全斗煥(チョン・ドファン)独裁政権を批判する大規模なデモが起きました。制圧しようと投入された韓国軍との間で衝突が発生。韓国軍が発砲し、市民に多数の死者が出た――事件のことです。
多数の死者が出た痛ましい事件ですが、同時にこれは独裁政権に対して市民が敢然と立ち上がった輝かしい抵抗の記憶でもあります。
そのため、特に左派・進歩系の人々にとっては決して汚されてはならないものなのです。前文在寅政権時代にいわゆる「5・18歴史歪曲処罰法」※が推進・施行されたのは、そのためです。
※「5・18民主化運動等に関する特別法」では、5.18光州民主化運動と関連して虚偽事実を根拠に悪意的に歪曲したり、毀損すれば5年以下の懲役や5,000万ウォン以下の罰金刑に処することができます。
池萬元(チ・マンウォン)さんはそもそも「5.18に参加した市民を北朝鮮特殊部隊と決めつける」といった陰謀論を主張し、名誉毀損などで訴えられていたのですが、このたび大法院で有罪となりました。
大法院は「民主化運動に参加した市民を北朝鮮軍と誤認させる状況を招き、北朝鮮軍だと主張する根拠も明らかに不足しており、悪意があってたちが悪い」としました。
先にご紹介したとおり、映画『キム君』は、陰謀論者・池萬元(チ・マンウォン)さんに「光殊1号」とされた写真の人物が本当は誰だったのか、を5年間かけて追ったドキュメンタリーでした(以下は予告編)。
実は、この池萬元(チ・マンウォン)さんの著書は日本でも翻訳・出版されています。著作内には「光州事件は北朝鮮特殊部隊が扇動した反乱である」という主張もあって、もしかしたらこれを信じてしまった日本人がいるかもしれません。
陰謀論というのは魅力的に聞こえるかもしれませんが事実ではありません。
ただし、筆者は「5・18民主化運動等に関する特別法」には全く賛成できません。どんな形であれ、人の口を無理やり閉じさせるような法律などあってはならないと考えるからです。
(吉田ハンチング@dcp)