米韓首脳会談が終了し、韓国メディアがあれほど騒いだ「ドル流動性スワップ」(韓国側呼称は「通貨スワップ」)については、米韓共同声明の中には言葉も登場しませんでした。
しかし、どうしても諦めきれないのか、韓国メディアには「今回の共同声明に異例の為替安定の文言が入ったのは通貨スワップ締結への土台だ」なんて記事が出ました。
上掲の記事ご紹介したとおり、「そうかなぁ……」という話なのですが、ウォン安が沈静化しませんので、(よせばいいのに)「通貨スワップが必要だ」という主張は収まっていません。
2022年05月24日、韓国メディア『東亜日報』に「危機のたびに外貨が干上がった韓国、米韓通貨スワップで止めなければならない」という記事が出ています。
興味深いのは、書き手がカン・サムモ『東国大学』経済学科教授(韓国国際金融学会長)だということです。
少なくとも肩書きからすれば経済についての理解がある人のはずです。Googleさんも高く評価するオーソリティーの手に成る記事のはずなのですが……。
記事の主旨としては、「韓国は危機のたびに通貨スワップによって救われてきた。だからウォン安に見舞われている現在、米韓通貨スワップを締結すべきだ」と述べているに過ぎません。
韓国の識者にありがちな「自身を相対化できていない」主張です。韓国にとって必要でも、アメリカ合衆国にとっては全然そうではないことが分かっていません。
しかし、非常に注目すべき点が最後の段落にあるのです。以下に引用してみます。
(前略)
今回のバイデン大統領訪韓で、一時的な通貨スワップではなく常設通貨スワップ協定締結を議論しなければならないという主張もあった。一時的な通貨スワップを結ぶ場合、協定期間が満了するたびに外国為替市場に不安感が大きくなるため、常設通貨スワップに切り替えなければならないということだ。
しかし、アメリカ合衆国が常設通貨スワップを結んでいる国家は、欧州連合(EU)、英国、日本など一部に過ぎない。
(後略)
一時的な「通貨スワップ」協定の場合、協定が終わるたびにまた不安視されるので常設に切り替えるべきだという主張は、「いかがなものか」と若干引っ掛かりますが、まあ、ここまではいいでしょう。
次です。
従って、韓国が米国に例外的に常設通貨スワップを結ぶように要請するには、政治的に大きな報酬を提供しなければならないものと見られる。
事実、韓国の外国為替市場が他の新興国に比べて過度に不安なのではないので、一時的な通貨スワップ締結も容易ではない。
現在の状況では、まず一時的な通貨スワップを復元しようとし、長期的な側面で常設通貨スワップ協定を締結できるようにする必要がある。
(後略)
「従って」の後が全然間違っています(笑)。
「政治的に大きな報酬を与えれば、合衆国は韓国と通貨スワップを結ぶ」と言っています。
その上、この文脈では、合衆国が現在常設のドル流動性スワップラインを引いている、EU、イギリス、日本、スイス、カナダはまるで「合衆国に大きな政治的な報酬を与えたから」そのような立場になった――と聞こえます。
違うでしょう。
合衆国連銀がスワップラインを結んでいるのは、この5つの国と地域の中央銀行がハードカレンシーを持つからです。
ハードカレンシーを持つ国の経済に何かあったら、世界的、つまり合衆国の金融も毀損する可能性があるからスワップラインを結んでいるのです。
「大きな政治的報酬を合衆国に与えたからスワップラインを結んでもらえた」のではありません。この先生は何か非常に大きな、しかし実に韓国らしい誤解をしていらっしゃいます。
もし、ウォンが世界的に重要な通貨、ハードカレンシーであれば、合衆国もスワップラインを締結するでしょう。しかし、ウォンは朝鮮半島の南半分でしか使われていないローカルカレンシーに過ぎません。
ですから、合衆国はスワップラインを結ばないのです。
最後の「まず一時的な通貨スワップを復元しようとし、長期的な側面で常設通貨スワップ協定を締結できるようにする必要がある」という文も無茶苦茶です。
だって、合衆国には一時的だろうが、常設だろうが「韓国とのスワップライン」など必要ないのですから。
(吉田ハンチング@dcp)