韓国の2022年08月の経常収支が予定どおりに赤転しましたので、韓国メディアが「危ない兆候」と多くの記事を出しています。
韓国という国は、貿易収支が赤字となり、それによって経常収支が赤転するとまずいサインです。「残酷な四月」※でなく、08月だというのに経常収支が赤字になるのは大変よろしくありません。
↑2021年と2022年の経常収支の比較。01~08月の累計で2022年は「2021年比:-343億ドル」。343億ドルも経常収支が減少しているのです
これまで韓国政府は「(通関ベースの)貿易収支がいくら赤字になっても、経常収支が黒字だから大丈夫だ」と言ってきたので、08月にはついにその言い訳も通用しなくなったのです。
韓国金融当局は火消しに務めています。
2022年10月07日、国政監査に出席した李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「09月には(経常収支)は黒字に換わり、年間では黒字になる」と述べています。
李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が09月は黒転すると述べていますが、確かにその可能性は高いです。
Money1では何度もご紹介していますが、韓国は貿易収支が大きな黒字でないと経常収支は黒字になりません。貿易依存という状況から抜け出せていないからです。
通関ベースの貿易収支が直近までどのように推移しているかを見てみましょう。
⇒データ出展:『韓国 産業通商資源部』公式サイト
※産業通商資源部が公開したデータを基にMoney1編集部でグラフ化
上掲のとおり、通関ベースの貿易収支は「約-95億ドル」という巨額の赤字となりました。これが国際収支統計の貿易収支では「約-44億ドル」(正確には-44億4,930万ドル)で締まりました。
韓国は、このような巨額赤字をサービス収支・第1次所得収支・第2次所得収支で黒字にひっくり返すことはできません。
結果、08月の経常収支は「約-30億ドル」と赤字転落したのです。
「(経常収支が)09月には黒字になるだろう」と李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が言えるのは、上掲のとおり通関ベースの貿易赤字(貿易収支のマイナス)が「約-38億ドル」で済んでいるためです。
この金額程度の通関ベースの貿易赤字なら、国際収支統計では黒字転換が可能です。
国際収支統計で貿易収支が黒転すれば、サービス収支・第1次所得収支・第2次所得収支がイッテコイで「プラマイゼロ」になっても、経常収支は黒字になります。
ですので、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の読みは恐らく正しいです。
しかしながら、上掲のとおり、韓国の経常収支は2021年と比較して大幅に減少しています。これが外貨調達難につながることは十分に考えられるのです。
また、コロナ禍からの回復で、経常収支にマイナスの影響を与える要因が注目されています。
サービス収支の赤字が膨らむ懸念
サービス収支です。
読者の皆さまもご存じでしょうが、日本がビザなし渡航を解禁するというので韓国でも日本旅行への期待が膨らみ、韓国-日本線の予約が激増しています。
これは、韓国の皆さんが大量に訪日し、日本でお金を使うことになりますが――国際収支統計・サービス収支の中の旅行収支などがマイナスに傾くのです(海外のサービスを輸入したことになる)。
コロナ禍での世界的な人の移動制限によって、韓国のサービス収支のマイナスは小さく抑えられてきました。年次で見ると以下のようになります。
⇒データ出典:『韓国銀行』公式サイト「ECOS」国際収支統計「サービス収支」2017~2021年
2017年:-367億3,410万ドル
2018年:-293億6,940万ドル
2019年:-268億4,530万ドル
2020年:-146億7,010万ドル
2021年;-31億830万ドル
上掲のとおり、2017年には「-367億3,410万ドル」という巨額の赤字だったのに、コロナ禍に見舞われた2020年には「-146億7,010万ドル」と6割も赤字が減少しました。
さらに2021年には「-31億830万ドル」ですから、2017年のなんと「8.5%」にまで激減したのです。
コロナ禍で韓国に何か恩恵があったかといえば、サービス収支の大赤字が減少した点を挙げることができます。
で、これが回復して元に戻ると……なのです。
資源価格が高止まり、対中国貿易が振るわずに貿易収支が大きく回復しない状況で、サービス収支の赤字が拡大すると……経常収支がマイナス方向に傾く可能性が高まるのです。
09月はともかく、10月以降の韓国・国際収支統計のサービス収支には要注目です。
※毎年04月には、海外への配当・利払いが集中するので、韓国の経常収支は大きく減少、時には赤字に転落します。そのため韓国メディアでは、しばしば「残酷な四月」と詩的に表現します。
(柏ケミカル@dcp)