ヘッジファンドなどの投機筋が、ある国の通貨を狙い、攻撃を仕掛けて大もうけを狙う手法として「先物為替予約」契約の利用があります。
「先物為替予約」を行って売り浴びせる
仮にK国という国があり、その通貨「ヲン」が狙われたとします。
狙いをつけたヘッジファンドは、まず「3カ月後に1ドル=1,200ヲンのレートでヲンを売るよ」という「先物為替予約」の契約を行っておきます。
もし3カ月後に為替レートが「1ドル=1,300ヲン」になっていたら、ヘッジファンドは1ドルにつき「100ウォン」の利ざやを取ることができますね。
予約した1,200ヲンよりヲン安が進めば進むほど利ざやは大きくなり、もうかります。
次に、ヘッジファンドは為替市場で猛烈な勢いでヲンを売ります。これによりヲンは通貨安が進行します。怖いのは異常に気付いた他の投機筋がこの波に乗ってくることです。
「!」と気付いた他の投機筋が売りに乗ると、これが強大な奔流となって通貨の大暴落が起こります。
もし、K国の通貨当局が自国通貨の価値を防衛したい(通貨安を許容しない)とすれば、自国通貨を買うしかありません。保有するドルで自国通貨ヲンを買いますが、もしヲンを買うための資金が尽きたら、そこで「おしまい」です。
外貨準備が潤沢ではない国では通貨防衛もままならないまま、ヘッジファンドの売り浴びせに屈し、後は悄然(しょうぜん)と見ているだけとなってしまうのです。為替市場をいったん強制的に閉鎖するという荒技もあり得ますが、これを行うとその通貨への信認が弱まり、市場再開となった際にさらに通貨安が進行すること必至です。
K国の通貨当局がバンザイしたらヘッジファンドの大勝利です。
タイの「バーツ」がドボン 他国にも
1997年、実際にこのようなことが行われました。タイの通貨「バーツ」はヘッジファンドの通貨アタックに屈し、「1ドル=25バーツ」としていた固定相場制を諦めざるを得ませんでした。仕掛けた投機筋は大もうけの大勝利を得たのです。
ヘッジファンドがタイに狙いをつけたのは、タイはその当時固定相場制を取っており、経済実態からいってバーツは割高で、やがて通貨の切り下げを行わざるを得なくなることを理解していたからです。さらに外貨準備高からどのくらいの通貨防衛が可能なのかも知っていました。
タイの陥落は、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピンも巻き込むアジア通貨危機に発展、めざましい発展を遂げていた各国経済に打撃を与え、固定相場制を取っていた国はこれを放棄せざるを得なくなったのです。
⇒参照・引用元:『円高の正体』(安達誠司,光文社,2012年03月10日第5刷発行)
(柏ケミカル@dcp)