日本メディア『現代ビジネス』が日韓の漫画史についての大変興味深い記事を出しています。
「じつは多くの人が誤解している…漫画業界における『日本と韓国の違い』」というタイトルの記事で、その中に以下のように書かれています。
(前略)
1952年には韓国最初のSFマンガ、チェ・サングォン『ヘンデル博士』が発表されたほか、山川惣治の人気絵物語『少年ケニヤ』を模写してキャラクター名などを韓国人に変更したソ・ボンジェ『密林の王者』が100頁超の単行本10巻という、用紙不足もあって粗悪な漫画本ばかりだった時代に、型破りな長編として刊行される(土屋礼子「風刺画と漫画の日韓史」、朴順愛+土屋礼子編著『日本大衆文化と日韓関係』三元社、
2002年)。
(後略)
上掲記事に登場する『ヘンデル博士』というのは以下のような作品です。「韓国初めてのSF漫画」といわれる作品ですが、こちらについては剽窃である――という話はありません。
↑『ヘンデル博士』の第1巻。面白いのは版型で、横位置になっています。1~3巻あって、『韓国漫画博物館収蔵庫』に収蔵されているとのこと。
↑韓国『KBS』の(日本の『なんでも鑑定団』にソックリ)な『本物の名品』に登場した際の、『ヘンデル博士』1~3巻と『涙の水平線』。ちなみに番組では、『ヘンデル博士』1~3巻は1,000万ウォン、『涙の水平線』は500万ウォンと評価されました。
――で『少年ケニヤ』です。
山川惣治先生の『少年ケニヤ』は、1951年から『産業経済新聞』に連載された作品。本作は正確にいえば「絵物語」であって、漫画ではありません。後に『角川映画』が劇場用アニメ作品(1984年)を製作、公開しています※ので、うっすら知っているという人がいらっしゃるかもしれません。
山川惣治先生の大人気作品は、韓国で勝手に模写され、海賊版が発行されました。
↑韓国で刊行された『密林の王者』。「徐鳳載・画」と作者(?)のクレジットも漢字表記です
↑山川惣治先生のオリジナルの『少年ケニヤ』。山川惣治先生は絵の大変巧い方で、骨格や筋肉の表現が実にリアル。主人公ワタルくんの少年らしい華奢な身体など、とても上手に表現されています。
↑山川惣治先生のオリジナルの『少年ケニヤ』。非常に緻密に描かれた「絵」が素晴らしいですね。ワタルくんの冒険物語は、当時の少年たちをわくわくさせました。
↑韓国の海賊版『密林の王者』。こちらも絵物語で1ページの1/3ほどは文章。オリジナルを模写(?)した絵が展開されていました。
韓国版のタイトルは『密林の王者』。日本併合時代からそれほど時間が経過していないころに刊行されていますので、「密林」と「王者」は漢字になっていますし、「徐鳳載・画」と作者(?)のクレジットも漢字表記です。
以降も日本の漫画はまるっとパクられました。『少年ケニヤ』の場合は、まだしも「模写」という作業が入っていたのですが、日本の出版社、作者には了解・許可を取らず、セリフをハングルに変更した安易な海賊版も横行します。
例えば1970年代、男の子に人気があったのは横山光輝先生の『バビル2世』です。
↑『バビル二世』はタイトルもそのママ、韓国で海賊版が刊行されました。
↑韓国の海賊版『バビル二世』。山野浩一くんが初めて「バビルの塔」の中枢部に案内されたときのシーン。浩一くんが一世からバビルの塔と3つのしもべを相続し、バビル2世となります。
超能力少年が3つのしもべを従えて、世界征服を企む悪の超能力者・ヨミと戦う――という話ですが、この傑作はまるっと海賊版が刊行されて大人気となりました。
同時期に女の子に人気があったのは、わたなべまさこ先生の『ガラスの城』です。この名作もまるっと海賊版が刊行されて大人気となりました。
↑わたなべ先生の『ガラスの城』もタイトルはそのママ、セリフをハングルにした海賊版が刊行され、韓国の女の子たちから人気を博しました。
挙げればキリがないのですが、日本漫画の剽窃・丸パクリが横行し、海賊版が大量に出たため、当時それらを熱心に読んでいた韓国の子供たちは、「韓国の作家が創った漫画」と認識して育ちました。そのため、「えっ、『銀河鉄道999』※って日本の漫画なの!」と驚愕することになったのです。
※韓国の海賊版タイトルは『우주 여객선(宇宙旅客船)』。
(吉田ハンチング@dcp)