「造船業」は韓国の基幹産業とされています。
韓国の造船業は1990年代後半に低コストを売りに急成長し、それまでトップだった日本を抜き世界一になりました。現在も韓国は世界トップクラスの受注量を誇りますが、2020年の上半期はかなり苦しい状況に陥っています。
結論からいえば、韓国の造船業の先行きは決して楽観視できるものではありません。現状を確認してみましょう。
一時最悪の状況に陥った韓国造船業
造船においては日本と欧州がトップランナーでしたが、1990年代に入ると韓国が低コストを売りに躍進。1990年代後半に世界トップに立ちました。
その後、2000年代中盤から中国の造船業が急成長し、そこから現在まで新造船受注のシェアは韓国と中国の2強状態で、そこに日本が追随している状況です。
※単位は万総トン(GT)
データ引用元:『日本造船工業会』(本稿末のURLを参照)
上のグラフは『日本造船工業会』による2009年から2019年までの日本・韓国・中国の「新造船受注量の推移」です。
2009年は前年に起きたリーマンショックの影響、2016年は海運市場の低迷が原因で建造需要が下がたっため、新造船受注が激減しました。
韓国(オレンジのライン)の新造船受注量は2013年に一度持ち直すものの、長らく「構造調整を怠っていた」ことなどが原因で再び低迷し、韓国を代表する造船会社『STX造船海洋』が日本でいうところの「会社更生法」の適用を申請するといったことも起こりました。
さらに2016年の海運市場全体の低迷によって『大宇造船海洋』、『現代重工業』、『サムスン重工業』の造船大手3社が巨額赤字に陥ります。
こうした苦しい状況を打開するため、韓国政府は『大宇造船海洋』に対して巨額の金融支援を行いました。
これに対して日本政府から「政府の介入は国際ルール違反だ」と指摘を受けましたが、韓国は問題ないと主張しています。
政府の強力な支援が功を奏したのか、韓国の造船業は再び息を吹き返し、2017年に再び世界シェアトップに返り咲きました。とはいえ、新造船受注量は以前と比べるとほぼ右肩下がりで、2019年には1,737万トンまで下がっています。
2020年上半期船舶発注量はコロナの影響で壊滅的
右肩下がりの韓国の新造船受注量ですが、2020年上半期の船舶発注量はさらにひどいことになっています。
2020年07月07日付の亜洲経済新聞によると、韓国の「2020年上半期船舶発注量」は118万CGT(標準貨物船換算トン数)。2019年上半期が328万CGTだったので、約3分の1ほどです。
2020年上半期の売り上げを前年比で比較すると、
『現代重工業』の受注額は約20億ドル(約2,140億円)でマイナス44%
『大宇造船海洋』の受注額は約14億4,000万ドル(約1,540億円)でマイナス50%
『サムスン重工業』の受注額は約5億ドル(約535億円)でマイナス84%
と非常に大きなマイナスとなっています。
コロナの影響で全世界の船舶発注量が下がっているとはいえ、中国は全世界で575万CGTのうち61%に当たる351万CGTを受注しており、韓国との勢いの差は明確。韓国の受注数の低下は深刻です。
「カタールから100隻受注!」では利益は出ない
韓国はカタールの国営企業とLNG(液化天然ガス)運搬船100隻の「スロット契約」(本契約前に造船の生産能力を確保する契約)を結びました。
ただ、この契約ではフランスへのロイヤリティーの支払い額が収益(営業利益)とトントンだといわれており、企業に大きな利益をもたらさない可能性があります。詳細は以下の記事でご覧ください。
『大宇造船海洋』は独禁法に触れるのでは?
さらに韓国造船業界にとって向かい風になりそうなのが、上述の「『大宇造船海洋』への公的資金の投入」です。
2019年に『現代重工業』が『大宇造船海洋』を買収し、新設の持ち株会社「韓国造船海洋」傘下に両企業を収める計画を進めています。しかし、両社の合併には各国の競争法当局から許可をもらう必要があり、EUと日本が難色を示しているのです。
特に日本は公的資金に投入問題について追及を緩めておらず、問題ないと突っぱねる韓国に対して「合併はNOだ」と言い出しかねません。
もし合併がうまくいかなければ、韓国造船業界にとって痛手となります。先行きを楽観視できない状況なのは変わりありません。
(中田ボンベ@dcp)
※ドルから円への換算は2020年07月17日の「1ドル=107.15円」を用いました
●データ引用元
⇒『日本造船工業会』「造船関係資料」