米韓通貨スワップが不発に終わり、「通貨安が一段落」という雰囲気が出ているためか、韓国メディアの注目ポイントは貿易赤字に移行したようです。
『中央日報(日本語版)』に「韓国、今年158億ドルの貿易赤字予想…金融危機当時より深刻」という記事が出ています。
2022年の韓国は貿易赤字に転落するという予測ですが……
記事の元ネタになっているのは、政府系シンクタンク『韓国産業研究院』(略称「KIET」)が2022年05月30日に出した、以下の「2022年下半期の経済産業展望」です。
⇒参照・引用元:『KIET』公式サイト「2022年下半期の経済産業展望」
『KIET』は、2022年は対前年比で「輸出:9.2%増加」「輸入:17.0%増加」と予測していますが、輸出よりも輸入の方が大きくのびるので、貿易のもうけを示す貿易収支(輸出 – 輸入)は赤字になるというのです。
『KIET』の予測は以下です。
輸出:7,038億ドル
輸入:7,196億ドル
貿易収支:-158億ドル
韓国の輸出は史上初めて「7,000億ドル」を突破すると読みますが、それでも赤字だというのです。
もう何度だっていいますが、文前政権では「輸出金額が拡大しているから大丈夫」の大合唱だったのですが、結局輸出が増えたところでもうからなければどうにもならないじゃん――とやっとメディアが報じるようになったというわけです。
それはいいのですが、『中央日報(日本語版)』ではこの貿易収支赤字予測をもって、経常収支も赤字に転落するかもといっています。
これは全くいただけません。
経常収支が赤転するかは国際収支の貿易収支を見ないと分からない
『中央日報(日本語版)』の記事は通関ベースでの貿易収支赤字について述べているに過ぎないからです。一方の「経常収支」は国際収支統計の話です。
通関ベースの貿易収支は、関税庁と産業通商資源部の公表しているものですが、これは国際収支統計の貿易収支とは合いません。
なぜそうなるのかはMoney1の過去記事を読んでいだだきたいのですが、具体的に示してみましょう。
2022年の「通関ベース」と「国際収支統計」とで、貿易収支がどのくらい違っているのかを比較してみます。現時点で、国際収支統計はまだ2022年03月分までしか公表されていませんので、01~03月での累計で比較します。
通関ベース:-40億3,900万ドル
国際収支統計:+104億290万ドル
※「通関ベース」の数字は産業通商資源部が公表した数字から。「国際収支統計」は『韓国銀行』が公表したデータから。
関税庁および産業通商資源部が公表している通関ベースの貿易収支は確かに01~03月では赤字で「-40億3,900万ドル」ですが、国際収支統計では「+104億290万ドル」と黒字なのです。
もし仮に、国際収支統計の方で貿易収支が本当に158億ドルの赤字に達したら、経常収支は間違いなく赤字です。
Money1でも何度もご紹介しているとおり、韓国の国際収支の構造は、「貿易収支が大きな黒字でないと経常収支が黒字にならない」ものだからです。
経常収支が赤字になると韓国はもちません。
ですので、経常収支が赤字に転落するかどうかを心配するのは正しいのですが、それを「通関ベースの貿易収支」の赤黒で判断するのはいささかフライングです。
ただし、通関ベースの貿易収支が赤字になっても大丈夫という話ではありません。通関ベースであっても貿易収支が、つまりは貿易でのもうけが減少することは韓国にとっては致命的な事象です。外貨を積めなくなってきたことを示しているからです。
間もなく「残酷な四月」の国際収支統計が公表されます。
これが非常に楽しみです。
念のために書きますが、「通貨安が一段落」というのも、現時点ではあくまでも雰囲気のものです。いまだに心理的抵抗線である「1ドル=1,200ウォン」を超えていますし、アメリカ合衆国が程度の差こそあれ、金融引き締め方向にあるのは変わりませんので。
(吉田ハンチング@dcp)