読者の皆さんもご存じのとおり、駐仏中国大使の盧沙野さんがフランスのテレビ局『TF1』の番組に出演し、インタビューに答える中で、旧ソ連の構成国について「主権国家としての地位を明文化した国際合意はない」などと述べ、ウクライナはじめ欧州各国から非難を浴びています。
もっともロシアだけは「よく言った!」と喜んでいるでしょう。
しかし、実はこの発言は、台湾関係の話が進んでいく中で出た話で、以下のURLでインタビューがどのようなものだったのかを見ることができます。
全部見る時間がもったいないという方のために要約すると、こんな具合だったのです。
最初は、マクロン大統領が訪中した件についてだったのですが……。
台湾の話に転じると、司会者は過去に中国が制作した台湾に向けて砲弾を発射する模擬アニメーションを見せながら(上掲)、盧沙野大使に「極めて衝撃的な侵略行為ではないか?」と質問します。
これに対して、盧沙野大使は「中国の領土保全が『台湾の一部分離主義勢力と西側諸国の勢力』によって脅かされているからだ」と主張しました。
分離主義勢力は台湾の一部であるとしたことに対して、司会者は台湾の世論調査を引きます。
「台湾で行われた最新の世論調査では、回答者の64%が自らを台湾人とし、30%が台湾人であり中国人だとし、中国人だとした回答はわずか2.4%だった」と追い詰めました。
これに続いて司会者は「自分たちの運命を決めるのは台湾の人々であるべきではないか」と問いました。
つまり「人民の自決権」について言及したわけです。台湾の民意に反することを言っているのは中国共産党政府ではないか、と突きつけたのです。
これに対する盧沙野大使の回答が傑作で、彼は「台湾の運命を決めるのは中国だ」「台湾海峡の両岸は同じ中国に属している、そういうものだ」と言い返しました。
もちろん、なんの回答にもなっていません。
また、盧沙野大使は「(中国が)必要なあらゆる手段を用いて台湾を回復する」と言い、平和的解決が不可能な場合には「他の手段に頼らざるを得ない」としました。
これこそ明確な脅迫であり、武力行使も辞さないと、これまでの中国共産党の主張どおりに認めました。
さらに盧沙野大使は、合衆国の台湾への武器売却は国際法違反であると批判。「国は非国家主体に武器を売ることはできない」と断じました。
すると司会者は、1964年にフランスのシャルル・ド・ゴール大統領が中国と国交を結んだ際、当時の毛沢東主席の支配下で「数百万人が虐殺され拷問を受けていた」ため、多くの欧米諸国は「ドゴールは間違っている」と考えた――と述べました。
つまり中国共産党政府との付き合い方で、かつてフランスは誤りを犯したと述べたわけです。
また司会者は、「一部の西側諸国は現在でも『今日の中国との付き合い方において、同じ過ちを再び犯す可能性がある』と懸念している」と述べました。
ここで盧沙野さんは怒り出し、司会者を「過去の誤ったうわさを利用して正当化する」しているとし、「不誠実だ」と非難しました。
誤ったうわさというのは「毛沢東の支配下において数百万人が虐殺され拷問を受けていた」を指すのだと思われますが、司会者の指摘したことは大筋において間違っていません。
毛沢東が行った文革なるもので、いったいどれほどの人が死亡したのか、現在においても明確にはされていません。しかし、数百万人のオーダーになることは確実です。
そこで司会者は「毛沢東のせいで何百万人もの人が死んだのに、これを“真実でない噂”と言うのか?」と聞き返しました。
痛いところを突かれたためでしょう、盧沙野大使は、この「毛沢東による何百万人という中国人の死者」についての質問には答えず、「本を読んだことがあるのか」と司会者を批判。
本を読んだことがあるからこそ、それが真実だと知っているのにです。
盧沙野大使は、「やめてくれ! 私は今日、このようなうわさについて話すためにここに来たんじゃない」と逃げてしまいます。
スゴイのは、司会者はこれにひるまず、「歴史を理解することが大切だ」と続け、説明しようとしましたが、盧沙野大使は遮って「私はそんなうわざについて話すために来たんじゃない、繰り返すが、話す必要はない。意味がないんだ!」と怒りました。
また「そして、いわゆる人権について私に語るな。お前たちの人権問題はもっとひどいんだぞ」と言ったのです。中国共産党の行ってきたこと、また現在行っていることについて、特に人権問題については話したくないご様子です。
そこで、現在のウクライナ戦争に話題が移ります。
司会者が盧沙野大使に「クリミアはウクライナに属するのか?」と質問するのですが、驚くべきことに盧沙野大使は「その質問は見方による」(必ずしもそうではない)と答えます。
そこで司会者は「クリミアは国際法上ウクライナに属しますよ」と念を押したのですが、盧沙野大使は「旧ソ連諸国は国際法上、有効な主権的地位を持たないので、国際的には主権国家としての地位を具体化する国際協定は存在しない」と述べてしまったのです。
(後略)
上掲の最後の部分が現在、世界的に「あんなのがフランス駐在大使なのか」「中国政府は大使の意見と同じなのか」と非難轟々となっているのです。
特に、旧ソ連邦だった各国は「だから中国が仲介するという和平協定なんか信用できないんだ」と不信感を募らせています。
中国共産党が欧州から袋叩きに合い、不信感を持たれるのは大変にいいことです。国際法を守らないヤカラ国家はもっと孤立させるべきでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)