世界最強の半導体ファンドリー事業を展開する台湾『TSMC』。
同社を創業したのは、Morris Chang(モリス・チャン)こと張忠謀さん。1931年07月10日生まれで現在92歳。
半導体業界の生きる伝説にして、いまだ重きをなす現役の業界人です。台湾の半導体産業の創始者でいらっしゃいます。
この伝説の人にインタビューした記事が『The New York Times』に出ています。Changさんの半生を追った内容ですが、そもそもなぜ台湾で世界初の半導体ファウンドリー事業を始めたのか、について非常に興味深い発言をされています。
台湾が日本に似ているから――という発言です。以下に記事の一部を引いてみます。
当時、Changさんは『Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)』に勤めていました。
(前略)
1980年代初め、『テキサス・インスツルメンツ』は日本にチップ工場を開設した。生産ラインがチップを生産し始めてから3カ月後、この工場の「歩留まり」はテキサス州にある同社の工場の2倍になっていた。
歩留まりとは、生産ラインからどれだけ使えるチップが出てくるかを示す重要な統計である。
Chang氏は歩留まりの謎を解くために日本に派遣された。
その結果、優秀な従業員の離職率が驚くほど低いことがわかった。
しかし、『テキサス・インスツルメンツ』は、合衆国で同じような優秀な技術者を見つけることができなかった。
ある合衆国工場では、監督職の最有力候補者はフランス文学の学位を持っていたが、エンジニアリングの素養はなかった。
先端製造業の未来はアジアにあると思われた。
1984年、Chang氏は同じくチップメーカーのジェネラル・インストゥルメントに入社した。
後に、当時はまだ珍しかったチップの製造は行わず、設計だけを行う会社を立ち上げる起業家に出会ったのだ。
今日、ほとんどの半導体企業はチップを設計し、製造を外注している。
この最後のピースは、台湾が労働集約的な重工業経済からハイテク経済へと移行した時期と重なる。
台湾当局が半導体産業の発展に狙いを定めたとき、チップの専門家としての名声を確立していたChang氏に、イノベーションを加速させるための研究所を率いるよう依頼したのだ。
Chang氏は台湾の長所と短所を見極めたとき、チャンスを見つけたと感じた。
『テキサスインスツルメンツ』の日本工場での経験を引き合いに出しながら、「台湾はアメリカよりも日本に似ていると結論づけました」と彼は語った。
1987年、チャン氏は『TSMC』を設立した。
彼の頭の中では、ビジネスモデルは明確だった。
『TSMC』は他社のチップを製造し、設計は行わない。つまり、業界内部の人々を味方につけ、自社が最も得意とする製造に集中すればよい、ということだった。
(後略)⇒参照・引用元:『The New York Times』「The Chip Titan Whose Life’s Work Is at the Center of a Tech Cold War」
『テキサスインスツルメンツ』の日本工場が合衆国工場よりも2倍の歩留まりだったというのも驚きですが、その理由とというのが「優秀な人材の離職率が低かった」というのも興味深い点です。
台湾当局から半導体産業の育成について相談されたChangさんは、台湾は合衆国よりも日本に似ているという長所を見い出し、『TSMC』の創業に踏み切ったというのです。
ちょっとうれしい話ではありませんか。
今、半導体ファンドリー事業は残念なことに、日本は最先端分野で遅れをとっています。『Rapidus(ラピダス)』という野心的なプロジェクトが巻き返しに立ち上がったばかりですが、ぜひ日の丸半導体産業がまた輝きを放つようになってほしいところです。
(吉田ハンチング@dcp)