韓国メディアでは、半導体企業の先行きに不安がでてきた――という記事を出すようになっています。例えば「『サムスン電子』が2~3年で業界1位の地位を取り返す」といったタイトルの記事を出すなどです。
現在もはや1位ではない――と認めているわけですが。
ライバル視しているのは台湾『TSMC』で、『TSMC』にはファウンドリー事業で圧敗。またシステム半導体分野でも、韓国の『サムスン電子』『SKハイニックス』は合衆国企業と比べれば世界的シェアを得られていない、と嘆き節の記事を出しています。
面白いのは、ここにきて「半導体産業を支えるための人材においてもライバル企業に負けている」としている点です。
『中央日報』が興味深い記事を出していて、台湾の『TSMC』は人材の確保、保全に注力している――としています。記事からデータを拾ってみましょう。まず、給与です。
給与の中央値
台湾『MediaTEK』:374万7,000万台湾ドル(約1億6,112万ウォン)
台湾『TSMC』:243万5,000万台湾ドル(約1億471万ウォン)
※非管理職従業員/2022年⇒参照・引用元:『中央日報』「미·일, K반도체 두뇌 쏙 빼간다…삼성전자 이직률, TSMC 2배 [반도체 인재 쟁탈전]」
これは台湾の平均給与の4~5倍の水準で、高給を支払って人材を確保している証拠、としています。
『サムスン電子』と『サムスン電子』の平均年収をウォン建てで比較すると以下のようになります。
ウォンで比較しているのに、なぜか『サムスン電子』はずんずん平均年収が下がっており、対して『TSMC』は(2023年のデータはまだないものの)上げてきています。2022年には、ほぼ同水準まできました。2023年には『TSMC』は『サムスン電子』を抜いたのではないでしょうか。
次に離職率です。これは先にMoney1でもご紹介したことがありますが、『TSMC』の伝説の創業者であるモーリス・チャンさんが、2023年アメリカ合衆国の『MIT』における講演で明確に述べていらっしゃったのですが、『TSMC』は離職率が非常に低いのです。
チャンさんは、『TSMC』が成功した理由について、
1.人材
2.離職率の低さ
を挙げていました。『サムスン電子』と『TSMC』の離職率を比較してみると、2022年では、
離職率
『サムスン電子』:12.9%
『TSMC』:6.7%
とほとんど倍ぐらい違います。チャンさんは「台湾では、半導体エンジニアや生産職が報酬が少し高からといって他の職場にすぐに転職することはほとんどなく、日本も同様だ」としています。
若者は美容整形の医師になり、40歳代は肩たたきされてチキン屋に
『中央日報』が嘆くのは、ここ20年の傾向として「有用な人材が工科大より医大に行ってしまうこと」です。また、せっかく企業に就職しても40歳代になると、「肩たたき」されて辞めざるを得ない風潮がある――としています。
韓国の若者が医大に行くのは、その方が儲かるからでしょうし、また40歳代で事実上のりタイアに追い込まれるというのは今に始まったことではありません。いわゆる「チキン or die」という韓国の悪しき伝統です。
結果、半導体産業に必要な人材が――美容整形医師になるか、まだ40歳代でチキン屋になっていく――のです。
チャンさんは「合衆国の半導体業界は離職率が15~25%と高い。これでは製造業が正常に成功することはできない」と非常に重要な指摘をされています。製造業においては、上の世代の先輩方から知見・経験を引き継いで次の世代に渡すのがいかに大事なことか、それは半導体だって変わらない――と述べていらっしゃるわけです。
韓国は輸出強国などと誇っていますが――これから人口が急減していくというのに、このまま若者が美容整形医師になり、就職しても40歳代でチキン屋になっていくのを――放置するのでしょうか。
半導体産業が再び世界一になるなどという未来は、とても来そうにないのですが。
(吉田ハンチング@dcp)