韓国の人の多くは国が用意した公的年金制度「国民年金」だけでは、安心して老後の暮らしを立てることができません。それは老齢年金の給付額が少ないからです。
今回は韓国の「国民年金」についてご紹介します。
韓国の年金制度は1999年にやっと形が整った
韓国は日本と同様に「国民皆年金」制度を持つ国です。
「国民皆年金」とは、国民全員が国の用意する「公的な年金制度」に加入する義務があり、その恩恵を受けることができるという意味です。
年金に加入し、数十年にわたって保険料を支払う代わりに、自分が年を取ってリタイアするときが来たら「老齢年金」※1が毎月給付される(受け取れる)ようになる。
これが年金制度のおおまかな建付です。
日本人のほとんどは知らないですが、実は韓国の年金制度が整ったのはごく最近のこと。また、リタイアしたときに受け取れる金額はとても少ないのです。
まず、韓国の「国民年金法」が成立したのは1986年、施行されたのは1988年のことです※2。
ただし、当時「国民年金」が適用されたのは従業員10人以上の民間事務所のみ。1992年に従業員5人以上の民間事務所に、1995年には農漁村の住民にも適用を拡大。
1999年になって都市地域住人も適用することとして、ようやく韓国の「国民年金」は形が整いました。つまり、韓国の「国民皆年金」制度というのは、実質20年あまりしか歴史がないのです。
もらえる老齢年金の金額は少ない!
2019年12月末時点で国民年金の加入者数は約2,222万人。これは韓国の18-59歳人口(約3,237万人)の66.6%に当たります。つまり、韓国の人の多くが「国民年金」に加入しており、ここから老齢年金の給付を受けるわけです。
韓国の年金制度は「保険料」を財源としていますが、日本と比べると保険料はずいぶん安く済みます。
定期的に改訂される「標準報酬月額」に「9%」を乗じたのものが年金の保険料です。民間企業で働くサラリーマンの場合には、労働者と企業で折半して支払います。
日本のサラリーマンの場合には厚生年金保険料の料率は「18.3%」で、労使折半で「9.150%」負担ですから、韓国の「国民年金」の倍支払っているわけです(日本は「2017年09月分からのデータ」)。
韓国の「国民年金」はこのように低負担ですが、その代わり給付水準も低いのです。
どのくらいの金額が老齢年金で支給されるかというと、同2019年時点では年金受給額の平均は月額「約52万3,000ウォン」(約4万5,738円:2020年05月09日のレート「1ウォン=0.087円」で換算)。
これではとても暮らしていけそうにありません。
2014年から「基礎年金」が導入されており、これは年を取ってからの所得を補うためのものです。所得下位70%までの65歳以上の人が給付対象になります。
支給額は、月額上限約25万ウォン(2018年04月から/約2万1,863円:レートは同上)で給付対象者の年齢によって変動します。2017年の受給額平均(月額)は「約18.4万ウォン」(約1万6,000円)です。
これをもらっても暮らしていけそうにはありません。
というわけで、韓国は「国民皆年金制度」を持つ国なのですが、国民の多くが加入する「国民年金」だけでは到底老後の生活を営むことはできません※3。
韓国で仕事をリタリアした後に自営業を始める人が多いのは、「年金だけでは暮らしていけない」からでもあるのです。
追記
韓国の雇用保険が脆弱な基盤の上に成り立っている件は以下の記事で先にまとめています。もしよれければ本記事と併せてお読み頂ければ幸いです。
今回の原稿は『国立社会保障・人口問題研究所』国際関係部第二室長の小島克久先生の論考に寄ったものです。小島先生に深く感謝申し上げます。
⇒参照・引用元:『社会保障研究 第1巻 第3号(通巻第3号:2016年12月刊)』「韓国の社会保障(第3回)韓国『老人長期療養保険』(介護保険)について」
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh20238715.pdf
⇒参照・データ引用元:『中央日報』「『国民年金の支給額』ナンバーワン…月に211万ウォン受ける66歳の男性」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
⇒参照・データ引用元:『聯合ニュース』「基礎年金全額受ける高齢者260万人…受給対象者のうち55%止まり」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
※1
日本の場合には「老齢年金」の他に「障害年金」「遺族年金」などの給付がありますが、ここでは話を簡単にするため老齢年金だけを取り上げています。
※2
韓国で公的年金制度の先駆となったのは、1960年に実施された「公務員年金」です。1963年には「軍人年金」が、1975年には「私立学校教員年金」がスタートしました。現在では、この年金制度は「特殊職域年金」と呼ばれています。
これら職種別の年金制度ではなく、国民を広くカバーする年金制度は1973年の「国民福祉年金法」の成立を出発点とします。
ただし、法律はできたものの1973年はちょうど「第一次石油ショック」が起こった年で、韓国の景気も悪化し、とても年金制度を導入することはできませんでした。
韓国の皆保険制度の本格導入は、上記の1986年の「国民年金法」(上記「国民福祉年金法」を改正したものです)の成立、1988年の同法の実施を待つことになりました。
※3
「国民年金」では老後の生活を保障することはできません。しかし、「公務員年金」「軍人年金」「私立学校教職員年金」では年金受給額の月額(平均)で食べていくことが可能なのです。この辺りの事情については別記事であらためてご紹介するようにいたします。
(柏ケミカル@dcp)