韓国ウォッチャーとしては決して見逃せない情報が出ました。『韓国銀行』が「通貨安定証券」に3年物を追加します。
↑『韓国銀行』公表の「金融通貨委員会」の議決書。満期3年物を追加するように「公開市場操作規定」を改正しています
なぜ急に『韓国銀行』はあの通貨安定証券に3年満期物を加えたのでしょうか(これまでは2年物が最高)。
通貨安定証券についてご存じの方は以下の段落は飛ばしてください。
通貨安定証券とは?
「通貨安定証券」は世界的にも珍しい中央銀行が発行する債券です。
債券は、そもそもお金を調達するために発行する証券です。発行した者は、債券を買ってくれた人に毎年一定の利子を支払い、満期になったら元本を返済します。
なぜお金をいくらでも刷れる中央銀行が債券を発行しなければならないかというと、お金の流通量をコントロールするためです。債券を買ってもらうことで、その分のお金を『韓国銀行』が吸い上げることができるからです。
普通は国債の「売りオペ」(国債を売ることでお金を吸い上げる)で対処しますが、これを行うには『韓国銀行』が国債、売れる資産を持っていなければなりません。
ところが、『韓国銀行』が独自の債券を発行するのであれば、紙に印刷するだけで済みます。
そもそも通貨安定証券は1961年11月朴正煕政権の時に発行が決められたのですが、これは当時の『韓国銀行』の保有資産が貧弱だったからだ――という指摘がされるのはそのためです。当時の発行決定には以下の3つの意図があったとされています。
②政治的混乱による資金流出を止めるため
(朴政権は軍事クーデターによって成立した政権でしたから)
③市中銀行に余剰資金を持たせないため
で、この通貨安定証券は今も残っており、いまだに発行しているのです。問題は、通貨安定証券が債券であり、詰まるところ借金で、『韓国銀行』が利子を支払わないという点です。
かつて『韓国銀行』は通貨安定証券を発行しすぎ、その利払いのため赤字に転落しました(2006年には通貨安定証券の利子払いが6兆8,000億ウォンもありました)。しかも債務超過寸前までいったのです。
これは、「紙幣を発行できる中央銀行が赤字に転落した世界的椿事」として現在まで語り継がれています。
ネット上には『韓国銀行』がいまだに赤字だと指摘される方がいらっしゃいますが、それは違います。かつて赤字だったことがある、というのが本当です(ただし単年ではありません)。実際、2021年03月に「2020年当期純利益:7兆3,658億ウォン」と公表しています。
流動性を吸収するため?
というわけですから、通貨安定証券には注目せざるを得ないのです。
今回『韓国銀行』が通貨安定証券に3年物を加えた理由は明らかです。金融緩和のためお金がじゃぶじゃぶになってしまったことへの対処です。先にご紹介したとおり「M2」※が3,363兆ウォンにまで達しています。
経済が拡大すればM2も膨らんで当然ですが、しかし異常な速度です。これを回収しなければならない局面がやがてきます(拡大の速度を緩める)。そのために通貨安定証券も使うつもりですが、あまりに拡大規模が大きいので通常の「満期2年」では時間が足りないと見ていると推測できます。
今回の3年物の追加は、『韓国銀行』がアップを始めたと見るべきではないでしょうか。
※「M2」は至極簡単に言えば市中にどれくらいあるのかを示す指標です。
M2=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(預金通貨、準通貨、CDの発行者は、国内銀行等<マネーサプライ統計のM2+CD対象預金取扱機関と一致>)
⇒参照・引用元:『日本銀行』「マネーストック統計のFAQ」
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/faqms.htm/
⇒参照・引用元:『韓国銀行』公式サイト「2021年度議案第22号-「公開市場操作規定」改正(案)」
(柏ケミカル@dcp)