韓国の造船業は維持できるかどうかという瀬戸際です。造船業Top3社が赤字続きで「どうするんだろう」という財政的な問題もさることながら、造船業に携わる人が激減しており、そもそも受注してきても造れるんですか?という懸念があるのです。
この点は、韓国の産業通商資源部も「なんとしなきゃ」と対策苦慮しています。以下は2023年01月09日、産業通商資源部が出したプレスリリースです。
⇒参照・引用元:『韓国 産業通商資源部』公式サイト「李昌洋(イ・チャンヤン)第1次官、造船業現場で人で不足解決策を議論」
この資料の中に、韓国造船企業が受注した量のデータがあるのでグラフにしました。まず以下をご覧ください。
※CGTは「Compensated gross tonnage」の略で「標準貨物船換算トン数」と訳されます。船舶の建造工事量を表す指標です。
⇒参照・引用元:『韓国 産業通商資源部』公式サイト「李昌洋(イ・チャンヤン)第1次官、造船業現場で人で不足解決策を議論」
2020年の終わりぐらいから「受注のジャックポット!」と喧伝してきたのですが、なるほどそれも無理はなく、2020年の受注はわずか「828万CGT」に過ぎません。
2021年は「1,764万CGT」なので、一気に2.1倍となりました。2022年はそれから落ちて「1,559万CGT」で締まっています。
問題は、韓国において造船業はすでに斜陽化が進んでいることです。
例えば、先に『ハンファ』グループに売却が決まった『大宇造船海洋』も、もともと2015年に不正会計が発覚した時点でおしまいになってもおかしくなかったはずで、それをズルズルと延命させてきたわけです。
今回懸念されている人材難というのは、売上が落ちたのに合わせて人材が流出(食べていけなければ離職して当然)したので、急に受注が増えたところで人手不足で回らないというのが根本原因です。
上掲のプレスリリース内で産業通商資源部は以下のようにまとめています。
(前略)
ただ16年以降、長期間続いた不況で多数の人材が流出したため、生産すべき物量が増加しても、生産に支障のないよう生産するための人材を迅速に投入しなければならない状況だと明らかにした。⇒参照・引用元:『韓国 産業通商資源部』公式サイト「李昌洋(イ・チャンヤン)第1次官、造船業現場で人で不足解決策を議論」
生産に支障を来すかもしれないのに、なぜキャパをオーバーしてまで廉価受注をするのか――です。
急に人人手がいるといっても、造船業は特殊の製造業ですので他業種からの転用は利きません。また、Money1でもご紹介したことがありますが、そもそも韓国の若い世代の皆さんは「きつい仕事だ」として造船業で働くのを忌避しています。
納期に遅れたら大変ですので、産業通商資源部は「造船業外国人力導入で解消方案」というのを打ち出しているのです。
ビザの発給手続きを1カ月に短縮し、外国人を導入してよい比率※を従来の20%から30%まで上げる
※)内国人常勤人材(3カ月以上勤労)の20%の人数まで外国人を許容する、というルールになっています。
――という方案です。その場の思いつきだろ、としか見えませんが、李昌洋(イ・チャンヤン)次官は「根本的な人材難解決と競争力強化のためには、作業環境や賃金構造など改善を通じて「造船所が働きたい職場」になるようにすることが大事だ」とも述べています。
つまり「造船企業は賃金を上げるなど努力しろ」と言っているだけです。企業からしてみれば「いや、会社は赤字なのですよ」と言いたいでしょう。
また、同プレスリリースによれば「(国は)国内造船産業がAI・ロボットなどを活用した工程自動化・デジタル化で人材難に対応できるよう、持続的に支援する」とのこと。
こんな話は先の受注への対応です。それよりも焦眉の急は、上掲2021年、2022年で積み上げた受注をこなすことができるのか?でしょう。
できもしないキャパオーバーの仕事を安値で積み上げて、韓国の造船業はいったい何をしたいのでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)