先日、EU当局から『現代重工業』※1との合併が「駄目」と判断された韓国造船最大手『大宇造船海洋』。
これで「赤字の会社をどうするんだ」という課題は振り出しに戻ったわけです。
何度かご紹介していますが、この『大宇造船海洋』の財務状況は非常によろしくありません。赤字続きなのはもちろんですが、債務の利子負担という面でも大変によくない状況です。
当たり前ですが、せっかく本業でもうけても債務の利払いが大きければその分、利益が削られます。
『大宇造船海洋』の場合、注目すべき点は「転換社債」※2です。
転換社債「2.3兆分」を国策銀行が引き受けている
転換社債というのは、設定された条件を満たせば株式に転換できる権利が付与された社債です。
社債なので、一般には定期的に利子を支払い、満期が来たら元本を償還するという債券です。これに株式にできるよ、という権利(オプション)が付いているのです。
で、『大宇造船海洋』。
『大宇造船海洋』は国策銀行『輸出入銀行』を引き受け先に転換社債「2兆3,328億ウォン」(約2,239.5億円)を発行しています。
転換社債の発行額
2016年12月:1兆ウォン
2017年06月:1兆2,848億ウォン
2018年03月:481億ウォン
小計:2兆3,328億ウォン
※四捨五入しているので加算しても数字が合いません
国策銀行『輸出入銀行』としては、韓国でも最大手の造船業へお金を入れて救済する意味があったのです(転換社債を引き受けたので株主になることも想定しているのです)。
『大宇造船海洋』からしても国策銀行が(先々)株主になることも含めてお金が入ってくるわけですから大変に助かる話でした。合併話が進めば、『大宇造船海洋』の財務状況も改善されてうまくいくはずでした。
しかし……なのです。
地獄が始まる。転換社債の利率が8倍になる!
合併話が頓挫。まず『現代重工業』グループから入るはずの1兆5,000億ウォン(約1,440億円)がなくなりました。
2022年から『大宇造船海洋』の地獄が始まります。
前述の転換社債「2兆3,328億ウォン」の利率がこれまでの「1%」から「8%」台に上がるのです。
そもそも金利はステップアップして上がるように設計されていました。上掲の転換社債の発行時期はそれぞれ違いますが、最初のステップアップ時期は同じ日付け「2021年12月31日」です。
ステップアップする金利は「市場金利に0.25%を足したもの」とされています。
それがいくらになるかというと、まず「市場金利」は、「民間債権評価会社4社が提供する信用等級に該当する5年満期の公募無保証会社債の基準収益率」の平均です。『大宇造船海洋』の信用等級は、投資適格等級の最下位の「BBB-」。
これを当てはめるなら、2021年12月の段階でなんと「8.29%」になるのです。
仮に「8.0%」で計算しても以下のようになります。
~2021年:1%(年283億3,000万ウォン)
2022年~:8%(年2,266億3,200万ウォン)
このような利払いが可能でしょうか? 不可能です。
なぜなら直近で『大宇造船海洋』の営業利益は以下のように大赤字だからです。このような利払いをできる財務的体力などありません。
総売上:3兆1,308億6,860万ウォン(約3005.6億円)
営業利益:-1兆2,393億1,588万ウォン(約-1,189.7億円)
当期純利益:-1兆3,014億2,771万ウォン(約-1,249.4億円)
⇒データ引用元:『韓国金融監督院DART』公式サイト
しかも、転換社債の満期は一応30年です。
2016年12月 ⇒ 2046年11月
2017年06月 ⇒ 2047年05月
2018年03月 ⇒ 2048年04月
利率が上がるまでに合併を完了し、財務状況を整えるプランだったのでしょうが、EUの否決によって全てが雲散霧消しました。
結局のところ、結論はこうなります。
『大宇造船海洋』は持続不可能です。
ただし、この転換社債には『大宇造船海洋』が利子払いを遅延させることができる条項が含まれています。『大宇造船海洋』はこれによって利払いを実際には停止させています。しかし、これはあくまでも先延ばしに過ぎません。
国策銀行が何かウルトラD級の荒技を決めない限り、『大宇造船海洋』を救うことはできないでしょう。
※1正確には『現代重工業』グループとの合併。
※2転換社債(Convertible Bond:略称「CB」)は、日本では2002年04月01日の商法改正で正式名称が「転換社債型新株予約権付社債」となっています。
(吉田ハンチング@dcp)