2022年07月19日、アメリカ合衆国財務省のジャネット・ルイーズ・イエレン(Janet Louise Yellen)長官と韓国の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官の会談が行われました。
イエレン長官さんとしては、訪韓した目的は「ロシア産原油の価格上限制に韓国を参加させること」でした。それについては参意を得たのでOKというところでしょう。
韓国側が必死になって望んだ「通貨スワップ」はどうなったでしょうか。
以下が企画財政部が出したプレスリリースの全文和訳です。注目は[3]の(金融・外国為替市場)です。面倒くさい方は[3]だけお読みください。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官は訪韓したジャネット・イエレン(Janet Yellen)アメリカ合衆国財務長官と07月19日(火)16:30、米韓財務長官会議を開催した。
ㅇ今回の会議は2016年以降6年ぶりに韓国で開催されたもので、秋副総理就任以後、米韓長官間の公式会合は07月01日の電話会談、および07月15日の主要20カ国(G20)財務長官・中央銀行総裁会議期間中の面談以来3回目だ。
□本日の会議で秋副首相とイエレン長官は去る05月、米韓首脳会談で両国首脳が宣言した「グローバル包括的戦略同盟」に合わせて米韓の間での経済協力関係を拡大・進化しなければならないということを意味し、
ㅇ世界経済及び韓国経済動向と展望、ウクライナ事態対応、外国為替市場動向および協力、気候変動およびグローバル保健問題対応など、両国が直面した多様な懸案に対する意見を交換し、深い議論を進めた。
[1](世界・韓国経済動向及び展望)
両国長官は、サプライチェーンの乱れ、ウクライナ事態以後、原材料価格の急騰とインフレ圧力の深化、急速な通貨緊縮の波及効果など、両国が直面する複合危機状況に鑑み、米韓の間での戦略的経済協力がこれまで以上に重要だということに共感した。ㅇ特に、両国国民と企業の負担を加重させるグローバルサプライチェーン妨害や不公正な市場歪曲慣行などに徹底的に対応するためには、両国間のより緊密な政策共助が必要であると意見を述べた。
一方、両長官はパンデミックからの迅速な回復、保健・財政政策の有効活用、堅調な対外健全性などこれまで韓国経済が見せた優れた回復力について共感し、韓国の早い経済回復が強い経済基礎体力と政策力量の証拠と評価した。
-秋副首相は、最近難しい状況の中でも韓国経済がしっかりした基礎体力と効果的な政策の下に、消費と輸出を中心に景気回復の流れを続けていると説明し、規制・租税負担緩和などを通じて企業投資を誘導して韓国経済だけでなく、世界経済の回復にも貢献すると明らかにした。
[2](ウクライナ事態対応)
両首相は、ウクライナ事態に関連して両国間の緊密な空調体制を再確認し、相互協力を継続することにした。特に、ロシア原油に対する価格上限制に関して、イエレン長官は去る07月01日、カンファレンスコールに続き、今回も価格上限制実施の必要性を重ねて強調し、韓国が積極的に参加することを要請した。
秋副首相は、韓国も価格上限制導入の主旨に共感し、参加する意義があることを明らかにし、価格上限制が国際原油価格および消費者物価安定に寄与できるように効果的に設計されるべきであることを強調した。
イエレン長官は、賛同の意思に謝意を表し、今後具体的な制度設計に韓国も積極的に参加することを希望すると答えた。
[3](金融・外国為替市場)
秋副首相とイエレン長官は最近、金融・外国為替市場の動向を点検し、両国間の外国為替市場関連協力強化を再確認した。ㅇ両国長官は、対外要因により最近ドルウォン為替レートの変動性が増加したが、外国為替健全性制度などに支えられて韓国内の外貨流動性状況は過去危機時とは異なり、依然として良好で安定的だと診断した。
ㅇただし、秋首相は現在、韓国の外貨流動性は安定的な状況だが、グローバル金融市場流動性の急変動や域内経済安全保障リスク要因に留意し、金融・外国為替市場の状況を徹底的にモニタリングする一方、有事に備えてコンティンジェンシープランを綿密に再整備する計画だと明らかにした。
ㅇこれらの点を考慮して、両長官は外国為替市場について緊密な協議を継続し、外国為替問題について先制的に適切に協力していくことに合意した。
-また、秋副首相とイエレン長官は、米韓両国が必要に応じて流動性供給の仕組みなど、さまざまな協力案を実施できる*という認識を共有した。
* “have ability to implement various cooperative actions such as liquidity facilities if necessary.”
[4](気候変動対応)
両国長官は、気候変動に対応した両国の「緑転換(green transition)」支援についても意見を交わした。秋副首相は、韓国が国際社会の一員として責任感を持ち、気候変動対応財源づくり努力に参加していることを説明しながら、韓国に事務局を置いたグリーン気候基金(GCF)に対する合衆国の持続的な関心と支援を要請した。
[5](グローバル保健)
秋副首相はパンデミックなどグローバル保健問題に対応するための財源補強にイエレン長官がリーダーシップを持ち、関連議論を積極的に主導していることを高く評価し、ㅇ韓国も先週G20財務長官会議で発表したようにパンデミック対応金融仲介基金(FIF、世界銀行内設置予定)に3,000万ドルを寄与する計画であり、今後関連議論でも両国協力が強化されることを願う、と付け加えた。
⇒参照・引用元:『韓国 企画財政部』公式サイト「米韓財務長官会の結果」
興味深いのは、両長官が「韓国内の外貨流動性状況は過去危機時とは異なり、依然として良好で安定的」と同意したという点です。
もちろん「危ないという認識を共有した」なんてことは書けませんが、これが「米韓の協力で何をするか」の項目につながり、効いてくるのです。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官が「危なくはないが……」としながらも(韓国の外貨流動性は安定的な状況だが)、「有事に備えてコンティンジェンシープラン(contingency plan)を綿密に再整備する」と述べています。
「コンティンジェンシープラン」(いざというときに備えて策定しておく緊急対応計画)というのが具体的に何を指すのかは分かりませんが、両国が「外国為替問題について先制的に適切に協力していく」というのは合意したとのこと。
注目は、その次の「米韓両国が必要に応じて流動性供給装置など多様な協力案を実行することができる*という認識を共有した」です。
ご丁寧に、英語では「have ability to implement various cooperative actions such as liquidity facilities if necessary.」となるよ、というのがちゃんと付いています。
「通貨スワップ」「通貨スワップ」と連呼されているので、企画財政部も注意を払ったと見られます。
「流動性を供給する仕組みのような、さまざまな協力を実施できる」と書いていますが、「if necessary」があります。
つまり「必要であれば」です。
上掲のとおり、両長官は「韓国内の外貨流動性状況は過去危機時とは異なり、依然として良好で安定的」という認識を共有しているので、「今は要らないよね」です。
恐らく韓国側はかなり押し込んだのでしょう。また、イエレン長官はかなり押し込まれたと見られます。
しかし、「必要になったら、流動性を供給する仕組みを実行できるかもしれない。でも、今は良好なんだから要らないよね」とかわしたような文面です。
少なくとも、「流動性を供給する仕組みを必ず作る」「ドル流動性スワップ(韓国側呼称は通貨スワップ)締結を考えましょう」といった言質を韓国には与えていません。
ですので、通貨スワップ要求は「空振った」と言えるのではないでしょうか。
韓国は「ドル流動性スワップ締結への言質を取った」といいように解釈するかもしれませんが、イエレン長官はバイデン大統領のときのようにうやむやにしたように見えますが……果たしてどうでしょうか。
<<重要な追記>>
企画財政部のプレスリリースについて誤訳がありましたので修正いたしました。誠に申し訳ありません。
(吉田ハンチング@dcp)