2022年03月09日、『ロシア連邦中央銀行』は市中銀行に対して「外貨を売るな」という指示を出しました。
これでロシア国民は資産の価値を保護するために外貨に両替えすることもできなくなりました。とりあえずこの措置は03月09日から09月09日まで6カ月続けるとのこと。
ロシア政府が慌ててこのような指示を出したのはもちろん外貨の保有高を減らさないためです。
外信の報道によれば、自由主義陣営国の金融制裁によってロシアは外貨準備の半分は使えなくなったとされます。ロシアの外貨準備は2022年01月時点で約6,300億ドルありましたので、報道が正しいとすれば使えるのは約3,150億ドル。
問題はこの外貨準備高で足りるのか、です。
世界に鎖国をしてやっていける国はありません。何かしらの物品、サービスなどの輸入を行っています。これを決済するには外貨が要ります。そもそも外貨準備はその決済のためのものですが、これが尽きると輸入できなくなってドボンです。国は立ちゆかなくなります。
ロシアの輸入金額は2021年12月のデータで「306億7,600万ドル」(以下の『TradingEconomics』を参照)。
月平均ざっくり300億ドル輸入しているとして、外貨準備高が約3,150億ドルしかないとすれば、全く輸出で外貨が入ってこない場合、ロシアは11カ月ほどしかもたないことになります。
中国企業ですら逃げ腰なのはお金を取りはぐれる可能性が高まったから
例えば、現在ロシアから多国籍企業が一斉にサービス停止、撤退を始めています。『Apple(アップル)』は製品の販売を止め、『Netflix』はサービスを停止、マクドナルドはロシア全店舗を閉鎖しました。
これは制裁のためなどではありません。
理由は簡単で、代金を取りっぱぐれる可能性が高まったからです。約3,150億ドルしかアクセスできる外貨がないのであれば、これが尽きると物品やサービスをただでもっていかれることになりかねないからです。
ルーブルのような13日で価値が71%も下落するような通貨を受け取っても仕方ないからです。
中国の『TikTok』ですらロシアでのサービスを一部停止しました。表向きの理由は「言論統制」となっていますが、どうでしょうか。お金が取りっぱぐれる可能性があるところで商売をしていても仕方ない――のが本音ではないでしょうか。
逆にいえば、中国企業ですら逃げ出したくなるほどロシアの決済用外貨が心配されるということです。
結局、全ては兵站線がいつまでもつかにかかっているのです。
合衆国は外貨の流入を断とうとしている!
上記の11カ月は、あくまでも輸出で外貨が全く入ってこないとして、という話です。
実際には、外貨準備高は外国との取り引きで資金流入の方が多ければその分積み上がっていきます。
アメリカ合衆国がロシアからの石油の禁輸を決めたのは、この資金流入を止めるためです。
ロシアは資源大国で、石油・天然ガスなどの輸出で成立していますが、これを封じてロシアに外貨を支払わないようにすれば、外貨流入量が減り、外貨準備を積むことがきなくなって……ロシアの外貨を減少させることができます。やがてドボン、というシナリオです。
今回、『ロシア連邦中央銀行』が市中銀行に「外貨を売るな」と指示を出したのは、ドルを温存してドボンを避けるために他なりません(あるいは耐えられる時間を長くするため)。ロシアもそれだけ危機感を持っていることの証拠です。
(吉田ハンチング@dcp)