そもそも外貨準備とはなんでしょうか。今回は、韓国をサンプルに外貨準備って一体なんなのかについてご紹介します。
例えば『日本銀行』は以下のように説明しています。
通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。
⇒参照・引用元:『日本銀行』公式サイト「外貨準備とは何ですか?」
分かるような分からないような説明です。なぜ分からないかというと、これは用途の説明だからです。
通貨危機等の時に使うのは分かるけれども、そもそも「なんで外貨準備ができあがるのか」――すなわち外貨準備とは何かの本質的な説明になっていません。
では外貨準備とはなんなのでしょうか? どのように増えるのでしょうか。
外貨準備とは何か?
簡単に言ってしまうと、外貨準備というのは「外国と取り引きでもうかった外貨」で、これが積み上がったものが「外貨準備高」です。
外国との取り引きの収支を記録した「国際収支統計」で見るとよりハッキリします。
韓国の国際収支統計をサンプルに外貨準備が本当に「外国との取り引きでのもうけ」であることを確認してみましょう。
ちょっと面倒くさい用語が出てきますが、少しご辛抱のほどを。
上掲は2020年の韓国の国際収支統計です。まずは眺めるだけで大丈夫です。
この国際収支統計から、「2020年、韓国がいくら外貨(資産)を獲得したのか(もうかったのか)」を見てみましょう。
国際収支統計は4つの大項目から成っています。「経常収支」「資本移転等収支」「金融収支」「誤差脱漏」です。
経常収支は4つの計上科目の合計、金融収支は5つの計上科目の合計です。金融収支の中に「外貨準備の増減」があることに注意してください。
経常収支と資本移転等収支は輸出・輸入、つまり出ていったお金と入ってきたお金の収支が表れているので、そのまま数字が「+」ならもうかっちゃった!(外貨流入!)、「–」なら損しちゃった!(外貨流出!)で 大丈夫です。
つまり、2020年の韓国は経常収支と資本移転等収支の合計で「計:755.2億ドル」の外貨流入です。
次の「金融収支」はちょっと面倒くさいです。
金融収支の場合、対外資産と対外負債の収支を計上していますので、これが「+」なら対外資産が増加していることを示します。
例えば、合衆国の株式に投資したといった場合を考えてください。対外資産が増加するということは国内から資金が流出しているわけです。
逆に「–」の場合には、例えば外国から国内株式への投資があって、対外負債が増加したことを示しています。つまり、マイナスになると資金流入です。
金融収支は投資タイプによって「直接投資」「証券投資」「デリバティブ」「その他投資」の4つに区分されています。その合計を計算すると「639.9億ドル」のプラスになります。
つまり、639.9億ドルの資金流出です。
いよいよ合算です。
経常収支と資本移転等収支で「755.2億ドル」の外貨流入、金融収支で「639.9億ドル」の外貨流出。
インとアウトを合計すると「115.2億ドル」のプラスです。
この国内に入ってきた外貨が「外貨準備の増減」(この場合はプラスなので増えた金額)になります。
しかし、金融収支の項目である「外貨準備の増減:173.9億ドル」と合いません。
これは、経常収支、資本等移転収支、金融収支からすると、「115.2億ドル」のプラス(外貨流入)でなければならないところが、外貨準備は「173.9億ドル」増えているよ――という状態です。
このようなときの調整のために「誤差脱漏」という項目があります。
「115.2億ドル」と「173.9億ドル」の差額である「58.7億ドル」を誤差脱漏に計上します。
「外貨流入:115.2億ドル」と「誤差脱漏:58.7億ドル」を足すと「173.9億ドル」。
これで合いました。
韓国は2020年には外貨準備を173.9億ドル積み上げた――となります。
つまり、外貨準備というのは、外貨流入と外貨流出の差が生み出すものです。
その本体は、国際収支統計でいうと「経常収支」「資本移転等収支」「金融収支(外貨準備高の増減を除く)」を合算したものなのです。
で、外貨での決済に使うために準備された資産なので「外貨準備資産」(Foreign Reserve Assets)です。
「米国債買いませんかー」という話
しかし、もうけた外貨は自国内では使えません。国内で使うには外貨と自国通貨を両替しないといけません。韓国でいうならドル売りウォン買いです。
外貨を自国通貨に換えるとどうなるでしょうか。当然自国通貨の価値が上がります。韓国でいえばウォン高になります。ですから、「よーし。もうけを全部自国通貨にしよう!」なんてことになったら困るのです。
通貨当局は「やめれー!」となりますし、そのため外国との取り引きで黒字が続く場合には「外貨」が積み上がっていきます。もちろん外貨のママでは金利が付きません。これが「外貨準備なんかタンス預金と同じだ」といわれる所以です。
そのまま持っていてもあほらしいので、ちょっとでも利ざやを稼ごうとすれば、どうすればいいでしょうか。
そのためにあるようなものが合衆国公債です。
ドルのママ持っていても増えませんが、米国債を購入して利払いを受ければお金は増えます。これが積み上がって合衆国公債の大量保有になるわけです。
日本などその極端な例で、世界一米国債を保有しています。合衆国財務省のデータによれば、2021年12月末時点で「1兆3,040億ドル」(約150兆8,337億円)も合衆国公債を持っているのです。
どうでもいい話かもしれませんが、台湾は昔合衆国から「お前は貿易で利益出し過ぎだろ。ウチからなんか買えよ」といわれて、「ほんじゃ金(Gold)を買います」と答えて「殺すぞ」とすごまれたとか――いや、本当かウソかよう知りませんけど。
日本はこれぐらいしたたかにやってもいいのではないでしょうか。
長々とお付き合いを賜わり、ありがとうございました。
外貨準備を国際収支統計からご紹介してみました。いかがだったでしょうか。
しかし、なのです。Money1ではずいぶん前にご紹介しましたが、韓国の場合、この外貨準備の増減が『韓国銀行』が毎月公表しているデータとはまるで合わないのです。
(吉田ハンチング@dcp)