朝鮮語の原文メディアでは。現在韓国で政争の種となっている「検察から完全に捜査権を剥奪する法案」を「検完捜剥」と略しています。ハングルは表音文字ですから「검수완박」と書かれても初見ではなんのことか分かりません。
この「検察から完全に捜査権を剥奪する」法案を巡って、新旧権力の戦いが激しくなってきました。
先にご紹介したとおり、2022年04月22日、現政府与党『共に民主党』と次期政権を担う最大野党『国民の力』が、朴国会議長の仲裁案に合意したのですが、25日には『国民の力』が「やっぱり合意できない」とひっくり返しました。
『国民の力』側は『共に民主党』に対して、再交渉を求めています。
合意をひっくり返された『共に民主党』側の強硬な議員21名(うち1名は偽装離党)は「なら原案のママで強行採決だ!」と怪気炎を上げています。『共に民主党』全体では、少なくとも合意案で強行採決するという方向で動いています。
同党の中にも反対議員はいるはずなのですが、『共に民主党』全国会議員の総意として発議――というある意味姑息な手段(誰が発議したのか個人の責任を追及されないので)を取っているため、誰が反対しているのかよく見えません。
文大統領は基本賛成なので拒否権は使わない
興味深いのは、間もなく退任する文在寅大統領は記者からのインタビュー野中で「私は以前から検察の捜査権と起訴権を切り離すべきという意見だった」としており、基本的にこの法案(の方向)に賛成なことを示唆しました。
この法案が通過すると「検察庁を最終的には起訴権しか持たない機関にする」という方向性が決定的になります。ですので、この法案を『共に民主党』が強行採決し、大統領府に回った場合、文大統領は拒否権を発動しないでしょう。だんまりを決め込んで成立させるはずです。
尹新大統領は反対の立場
尹錫悦(ユン・ソギョル)新大統領は、この法案には反対の立場です。立法府の問題なので「正面切って大反対」という態度は見せていませんが、古巣の検察庁から力を削ぐ話ですから賛成するわけがありません。
また、尹錫悦(ユン・ソギョル)新大統領によって、次期法務部長官に指名された韓東勳(ハン・ドンフン)さんは「絶対に阻止する」と明確に述べています。
しかし、『共に民主党』によって強行採決された場合には、次期法務部長官でもどうしようもありません。止められるのは、大統領の拒否権発動だけですが、当の文大統領に全くその気がないのですから。
法案は国会に差し戻され、過半数の議員の出席のもと、出席議員2/3以上の賛成があれば、その時点で法律として成立することになります。
韓国の国会の定数は300
『共に民主党』は(偽装離党の1名を入れても)172人ですので、2/3を満たすことはできません。
(『国民の力』から造反議員が出なければ――です)
文大統領は、前記の韓東勳(ハン・ドンフン)さんの「絶対阻止する」発言について「そのような意見表明はすべきでない」と一蹴しています。理由は立法府の決めることだから――です。
政治家の捜査を誰が行うか?
尹錫悦(ユン・ソギョル)新大統領になってからでは拒否権を発動されるので、文大統領のうちに可決させようという、姑息なやり口ですが、どうもこのままいきそうです。
前記のとおり強行採決を止めるための有効な手立てはありません。
『共に民主党』としては、どうしても「公職者の犯罪」を検察に捜査させたくないのです。先にご紹介したとおり「2、30人が監獄に行く可能性がある」と自覚しているからなのでしょう。
韓国は「検察の力が強い国」といわれることがありますが、大統領が帝王的な権限を持っているため、大統領および大統領の威を借る狐の行為を糾すためには、検察が力を持つしかない――という考え方もあるのです。
ただし、この法案が法律になったとしても、文政権の行った間違いが追及されないということにはなりません。新権力側も文政権の積弊を清算するために「あの手この手」を繰り出すでしょう。
この法案がどのように処理されるのか次の展開にご注目ください。
<<重要な追記>>
初出原稿に誤りがありましので2022年04月27日修正をいたしました。
誠に申し訳ありません。
(吉田ハンチング@dcp)