Elbridge A. Colby(エルブリッジ・A・コルビー)さんは、アメリカ合衆国・トランプ第2期政権下で2025年04月15日より国防総省政策担当国防次官(Under Secretary of Defense for Policy)に任命された国家安全保障政策専門家です。
「私はリアリスト(現実主義者)である」と名乗るコルビーさんは、2021年に『The Strategy of Denial: American Defense in an Age of Great Power Conflict(拒否の戦略)』※を著し、これが大変話題になりました。
主張することは、中国がアジア太平洋地域で地域覇権を握るのを“拒否”する戦略こそが、合衆国の最重要な対中防衛戦略であり、そこにこそ最大のリソースを投入すべきである――と提唱しています。
※日本語版は日経BP 日本経済新聞出版から出ています。
この人の「論」が面白いのは、対中国を拒否することに「現実的な」対処を行うことが肝要であり、同盟国にもそのための努力をすべきであるとし――「合衆国が守ってくれる」と固く信じることは間違っている――と述べている点です。
「防衛する」と誓っていたのに、南ベトナムやアフガニスタンだって見捨てたじゃないか――というわけです。理由は「コストが掛かりすぎたから」です。
こういう点がリアリストなのでしょうが、トランプ大統領の「オレは得になるのか」という視点と似ています。だからこそ国防総省政策担当国防次官に任命されたのでしょう。
コルビーさんにインタビューした『アジア・ファースト』という本が出ています。これは任命前の2024年10月に出た本ですが、この中から「韓国」について述べた箇所の一部を以下に引用します。
中国は韓国を狙いにくる
この章では、アメリカと反覇権連合を構成するアジア諸国の関係について論じてみたいと思います。まずは韓国から始めましょう。
(中略)
韓国はとりわけ日本の防衛について非常に重要です。
というのも、韓国は日本列島のど真ん中に突き刺さった短剣のような位置にあるからです。
もし韓国が「親覇権連合陣営」、すなわち中国側の陣営に移ってしまったら、地理的な位置という意味においても、アジアの勢力図と変えてしまうほど反覇権連合側に大きなダメージとなるでしょう。
『拒否戦略』における私の議論の中核にあるなら、アメリカにとってアジアが死活的重要な戦域であり、そこに存在する決定的なライバルが中国であるということです。
そして、中国が「半導体覇権連合」の中の脆弱な国を狙って自陣営に従属させようとするいかなる試みにも警戒すべきだというのが私の立場です。
直近ではそれが台湾を意味しますが、中国の軍事的な発展を考えると、将来的には韓国も中国のターゲットになるはずです。
(中略)
左右にブレる韓国とどう付き合うか
韓国の政権は、大統領ごとに政治が左右に大きく振れるため、政策が不安定です。
バイデン大統領、岸田文雄首相、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の間で行われたキャンプデービッドの日米韓三カ国首脳会談が開かれたことに私は賛成ですが、懐疑的でもあります。
というのも、韓国国民や日本国民が支持しているとは思えないからです。
それに、軍事的な観点から見て、日韓の深い連携が本当に重要なのかも分かりません。もちろん我々はさらなる協力を求めていくべきだと思いますが、それは目立たないようにやるべきではないでしょうか。
(中略)
ただ、過去の歴史的怨恨という、現実的にはあまり役には立たないかもしれないことに、韓国はなぜこれほど政治資産を投じる必要があるのか。そこに私の懸念があります。
左右にブレる韓国の政権に私たちが求めることは、左右どちらの政権でも共有される問題、政権に関係なく維持できる課題に焦点を絞ることです。
韓国の保守的な政府が追求しそうな課題しか取り組めないとなったら、左派政権になったときにお手上げでしょう。
(後略)⇒参照・引用元:『アジア・ファースト』著:エルブリッジ・A・コルビー,文藝春秋,2025年04月30日 第3刷発行,pp134-138
ご注意いただきたいのは、この本が李在明(イ・ジェミョン)さんが大統領になる前に刊行されているという点です。
↑2025年06月03日、ついに韓国大統領に成りおおせた李在明(イ・ジェミョン)さん。左派・進歩系は喜んでいますが、合衆国にとっては「ガッカリ」な結果となりました。
コルビーさんは「過去の歴史的怨恨という、現実的にはあまり役には立たないかもしれないことに、韓国はなぜこれほど政治資産を投じる必要があるのか。そこに私の懸念があります」と述べています。
韓国の大好きな「歴史問題精算」などというのは、現実的には役に立たないものだ――ということを理解しています。
しかし、その役に立たないことに血道を上げるのが韓国という国なのです。
(吉田ハンチング@dcp)