中国「統計で捕捉できない資金の流出が異常」1,674億ドルの誤差脱漏ってなんだ

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中国経済がガッタガタになっていますが、資金流出が大きくなっているという懸念があります。

2022年10月17日、『Reuters(ロイター)』に興味深い記事が出ました。国際収支統計に言及したものですが、注目ポイントがありますのでご紹介します。

(前略)
株式と債券、直接投資の資金の流れを示す政府の金融収支統計によると、6月までの半年間の収支は1010億ドルの純流出で、今年は通年の流出額が2016年以降で最大となる勢い。

債券市場の月次データによると、外国人投資家の売買動向は8月まで7カ月連続で売り越しとなった。

確かに経常収支は黒字を維持しているし、株式は小幅ながら純流入となるなど、全ての資産で資金が流出しているわけではない。

しかし国際収支は「誤差脱漏」の区分が452億ドルと大規模な純流出となっており、エコノミストの間には違法もしくはそれに近いルートで資金が流出していると疑う見方もある。

ナティクシスの首席アジアエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「誤差脱漏は基本的に非公式な手段による居住者の資金流出を映している。外国の資産運用会社が中国に投資しなくなっただけでなく、統計で捕捉できない資金の流出が増えている。人々は資金を持ち出したいと思っている」と指摘する。
(後略)

⇒参照・引用元:『Reuters』公式サイト「アングル:投資家の中国離れ拡大、人民元安や景気失速で資金流出」

ご注目いただきたいのは、「誤差脱漏ごさだつろう」について言及した部分です。これは重要な指摘です。

「誤差脱漏」とは?

ちょっと国際収支統計の「誤差脱漏」について、できるだけ簡単にやっつけてみます。すでにご存じの方は、次の小見出しまで飛んでください(面倒くさいという方も飛ばしていただいて大丈夫です)。

Money1でも以前にご紹介したことがありますが、誤差脱漏という項目は収支を合わせるための計上項目です。経常収支、資本移転等収支、金融収支の3つの収支でプラマイが合うはずなのですが、さすがに国家規模の統計なので、どうしても誤差が出ます。

これを調整するための項目が誤差脱漏です。

国際収支統計には、

経常収支 + 資本移転等収支 - 金融収支 + 誤差脱漏 = 0

という等式が成立します。ちなみに誤差が全くなければ、「資本移転等収支」は多くの場合非常に小さいものですので、これを無視すると、

経常収支 - 金融収支 = 0

です。

つまり、経常収支と金融収支は「経常収支 = 金融収支」。ですから、経常収支と金融収支はニアリーでイコール、「経常収支 ≒ 金融収支」になるのです。

――で、誤差脱漏は「経常収支」「資本等移転収支」「金融収支」を計算した上で、上掲等式の計算式で合わない金額をここに入れて帳尻を合わせます。

今回のポイントは以下です。

誤差脱漏が「プラス」であれば、「経常収支」「資本等移転収支」「金融収支」の合計で計算したよりも、余計に外貨が流入して、その分が外貨準備高に積み上がったことを意味しています。この誤差脱漏による調整の結果が、国際収支統計の「外貨準備の増減」になります。

――つまり、国際収支統計に捉えられない外国からの資金流入があったわけです。

逆に、誤差脱漏が「マイナス」であれば、「経常収支」「資本等移転収支」「金融収支」の合計で計算したよりも、余計に外貨が流出して、その分が外貨準備高を減らしたことを意味しています。この誤差脱漏による調整の結果が、国際収支統計の「外貨準備の増減」になります。

――つまり、国際収支統計に捉えられない外国への資金流出があったわけです。

この「国際収支統計に捉えられない」という点が重要です。

誤差脱漏は「計算で合わない金額」を計上する項目に過ぎませんが、国際収支に捉えられたくないお金の動きを隠蔽できる項目でもあるのです。

なぜ中国はこのように誤差脱漏が巨額なのか?

以下は国家外為管理局の国際収支統計から切り出したものです。


↑黄色でフォーカスしてあるのが2022年第1四半期、第2四半期の誤差脱漏。

⇒参照・引用元:『中国 国家外為管理局』公式サイト「中国の国際収支時系列(BPM6)」

黄色にフォーカスしたセルにご注目ください。2022年第1四半期には「+4億ドル」、第2四半期には「-455億ドル」が計上されています。

中国は上期合計で「-452億ドル」(約6兆7,678億円)という巨額が合わなかったのです。

上記のとおり、マイナスですから資金流出です。中国は、2022年上期に国際収支統計に捉えられない452億ドルが外国へ出ていった――といっているのです。

四捨五入していますので「4 + (-455)」とは合いません

以前、少しだけご紹介しましたが、かねてより中国には「表に出したくない資金の流出」があって、それが誤差脱漏に現れているのではないか、という疑惑がありました。

以下は「溜池通信vol.151」に『日商岩井総合研究所』調査グループ主任エコノミスト・吉崎達彦発先生が中国の国際収支統計の疑問点について書かれた文の一部です。中国の国際収支統計における誤差脱漏についての考察部分を引用します。

(前略)
もうひとつ気になるのは誤差脱漏の項目だ。

経常収支+資本収支は、本来なら外貨準備の増加額とイコールになるはずである。

それが合わないときは、差額は誤差脱漏という項目で調整される。

しかるに中国の誤差脱漏は、いつも決まってマイナスであり、金額も150億ドル前後で安定している。

どこかへ消えてしまう外貨が、いつも150億ドル前後ある」ということになる。

なにしろ150億ドルといえば1240億元に相当する。これは中国の国防費に匹敵する金額。

実は毎年この程度の金額が、海外に還流するような仕組みがあるのではないか、という疑念が頭をもたげてくる。

だとしたら、外貨は何に使われているのか。アングラマネーが海外の土地や金融資産を買い漁っているのか、あるいは軍部が密かに兵器を買っているのか。貿易黒字と直接投資の額が多いだけに、いささか気になるところである。
(後略)

IMF第5版基準による。資本収支は現在の第6版では金融収支に再編されています(筆者注)。

⇒参照・引用元:『溜池通信vol.151』「Weekly Newsletter June 21, 2002」

誤差脱漏に現れる中国の資金流出規模は異常という他ありません。

2021年第4四半期には「-863億ドル」(約12兆9,217億円)も計上し、2021年合計では「-1,674億ドル」(約25兆678億円)にもなります。

無茶苦茶な合わなさ加減であり、無茶苦茶な資金流出と捉えることができます。

だからこそ上掲の『ロイター』の記事も「統計で捕捉できない資金の流出が増えている。人々は資金を持ち出したいと思っている」と書いているのです。

本記事のドル円換算は2022年10月19日の「1ドル=149.73円」を用いました。『ロイター』の記事は元記事のママです。

(柏ケミカル@dcp)

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