読者の皆さまもご存じのとおり、中国ナンバーワンの不動産ディベロッパーとされる『碧桂園』(カントリー・ガーデン)がオフショア債券でデフォルトを起こしたと「認定」されました。
09月17日が期限となっていた「1,540万ドル」(ドル建て社債)の利払いができず、30日間の猶予期間内にも支払えませんでした。
認定したのは『CDDC』(クレジット・デリバティブ決定委員会)で、これによって明確にデフォルトです。
――で、CDS(Credit Default Swap:クレジット・デフォルト・スワップ)の売り手に支払いの義務が発生することになりました。
デフォルト案件が発生すると、その後に注目しなければなりません。
デフォルトしたの?してないの?問題
まず『CDDC』の判断が重要な理由を先にご紹介しておきます。ご存じの方は飛ばしてください。
できるだけ簡単にやっつけます。
中国絡みかどうかにかかわらず、デフォルトしたの?してないの?と外から見ていると、やきもきすることがあります。
例えば、ウクライナ戦争でロシアが対露制裁によって外貨建て国債の利払いができなくなったとき、プーチン大統領、また『ロシア中央銀行』は「(外貨がないので)ルーブルで支払うもんね」とし、世界を驚かせました。
デフォルトなの?デフォルトじゃないの?と話題になりましたが、これなどは明らかなテクニカルデフォルトです。
しかし、テクニカルデフォルトであっても、それがCDSによる支払いが発動する「信用事案」(後述)なのかどうかは、実は別問題なのです。
『CDDC』(クレジット・デリバティブ決定委員会)というのは、CDSに関して「信用事案」(Credit Event)が発生したのかそうでないのかを判断する組織です。
何度もご紹介していますが、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というのは、「保険」のような金融デリバティブ商品。
簡単にいえば、保険の売り手と買い手が存在します。
例えば『碧桂園』の債券がデフォルトしたら、その損失を補償しましょう――という、一種の保険を売るわけです。で、買い手の方は「これを買っておけばデフォルトしても安心」と保険料(みたいなもの)を払うわけです。
スグにお分かりになるでしょうが、保険と同じで、対象がデフォルトを起こさなければ売り手は丸儲けです。
ですので、これはデフォルトなのか?そうでないのか?という判断は非常に重要です。
自動車保険に例えるなら、これは保険でカバーできる事故なの?事故じゃないの?――みたいなものです。
皆さんも交通事故に遭って、保険屋から「いや、これは事故じゃないので保険金は支払われません」と言われたら激怒するでしょう。
保険の売り手からすると、「丸儲け」がベストですので、「いやいや事故じゃないでしょ」(デフォルトじゃないでしょ)と言い張りたいところです。
※この「事故」のことをCredit Event(信用事案)といいます。
――で、水掛け論になって決まらないと困るので、『CDDC』(クレジット・デリバティブ決定委員会)が、信用事案発生か否かを判断することになっているのです。
今回の『碧桂園』の「1,540万ドル」(ドル建て社債)の利払いについては、『CDDC』が「デフォルトだー!」と確定したので、明確にデフォルト事案となりました。
しかし上記のとおり、デフォルト案件が発生した場合には、その後が問題なのです。
実はCDSは非常に危ない時限爆弾です
まず「誘爆の懸念」です。デフォルト認定されたということは、これで誘爆が起こる可能性があるのです。
ずいぶん前に『恒大集団』の外貨建て債券についてご紹介したときに取り上げましたが、「クロス・デフォルト条項」というのがあるのです。
簡単にいうと、別の債券でデフォルトを起こしたら、こっちの債券もデフォルトしたとみなすからな――というものです。
つまり、発行済み債券が一部デフォルトを起こすと、これが他の債券にも飛び火してデフォルトの誘爆を起こす可能性があるのです。その規模は恐らく誰も把握していません。
例えば、『碧桂園』自身も「この債券がデフォルトしたら、どのくらいの債務がクロス・デフォルトするのか」を把握していないでしょう。
ましてや外部の人間に分かるわけもありません。
2008年のリーマンショックの際に、細切れにされたサブプライムローンがあっちこっちに利用されて金融商品となり、それが爆発したときにどうなるのかは誰も分からなかった――というのに似ています。
もう一つの懸念点は、「『碧桂園』をはじめとする中国の(いい加減な)不動産ディベロッパー」が発行したオフショア債券についてどれぐらいCDSが販売されたのか分からないことです。
推計はできるかもしれませんが、リスクの全体像を把握することなど、とてもできません。
前記のとおり、CDSは保険みたいな商品ですから、事故が発生さえしなければ売り手は「丸儲け」という美味しい思いができます。
ですので、CDSにいったん手を染めて美味しい思いをすると、販売を増やして「丸儲けの拡大」を狙いがちです(例えば『ドイツ銀行』)。
しかし、これがいったん爆発するとどうなるかというと……想像するだに恐ろしいことですが、売り手がそれを支払えず、金融機関などが「吹き飛ぶ」可能性があります。
金融機関が吹き飛んでそれが連鎖したときのことを考えてみてください。
例えば、投資家のジョージ・ソロスさんが2009年に「CDSは『破滅の道具』であり、禁止すべきだ」と述べたのは、CDSが破裂した際にその影響が世界的な危機を招く――という警告のためでした。
ここまでは一般的な話です。
中国リスクを極小化するためにも「中国にお金をやらない」
今回の『碧桂園』のデフォルト認定については、市場ではほとんど波風が見られません。
この理由の一つは、1,540万ドル」という、比較的ショボい金額の社債だったから、というのが挙げられます。
もう一つ、中国の不動産市場が危ないというのは既知の話なので、頭のいい人はすでに逃げてしまっていた――という理由もあります。
『恒大集団』が先に「もうアカン」と公知される状況となっていますので、『碧桂園』の社債など、さっさと手を引くのが当然であり、保有していなければCDSも必要ありませんので、買い手もいなかった――と見られます。
邪推すれば、今回『CDDC』が「これはデフォルトです」とすんなり判断を下したのは、そもそも金額もショボいし、誘爆の金額、CDSの爆発もないと読んだから――ではないでしょうか。
ただし、「『碧桂園』などの中国の(いい加減な)不動産ディベロッパー」が発行したオフショア外貨建て債券が次々とデフォルトになるとすれば、爆発規模が巨大なものになるもしれません(だって誰も正しくカウントできないのですから)。
外国人投資家は中国から手を引いていますので、外国人投資家が保有する債券・CDSの規模はそもそも小さくなっているはずで、その意味では世界経済を巻き込んでドボンの可能性は低いかもしれません。しかし、リスクを極小化できているとは誰もいえないのです。
中国内で轟沈するなら別にいくらやってもらっても構いませんが、外国の、しかも金融機関に破滅的な影響を及ぼすかもしれない――というのは困るのです。
被害が中国内にとどまり、14億人が石器時代の生活に戻るという程度にとどめてもらいたいのです。
そのためにも、何をするか分からない中国にお金をやってはなりません。
(吉田ハンチング@dcp)