「日本の債務」は韓国に心配してもらわなくてもいい、という話

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韓国の掲示板に日本政府の債務を心配していただく声が挙がっているので、まずこれをご紹介します。

(日本は)海外純資産4千兆ウォンを持っているは、同時に、政府負債が純資産より4倍も多い1京5,000兆ウォンであり、その負債規模は毎年急速に大きくなっている。

日本政府の年間予算は1,100兆ウォン程度である。

純資産から稼いだお金を含む政府の歳入が慢性的に不足しているため、毎年予算の30%以上を新しい債券を発行して埋める。

結局、毎年数百兆ウォンずつ政府負債が増え続けている。

毎年円を数百兆ウォン刷って借金で各種社会保障制度など維持するため日本も大変な状況だ。

このように、日本政府の債務が年々増加していることを心配してくださっています。

ステファニー・ケルトン先生の『財政赤字の神話』日本語文庫版が4カ月ほど前に出版されたばかりで、この中に日本の政府債務について一つの回答が書かれていますので、ご紹介します。

ステファニー・ケルトン先生は1969年生まれ、MMT(現代貨幣理論)の主提唱者として知られた経済学者で、ニューヨーク州立大学のストーニーブルック校の経済学教授でいらっしゃいます。

まず、以下の部分。

(前略)
日本銀行は三年以上にわたり、イールドカーブコントロールと呼ばれる政策を実施している。

短期金利の固定化に加えて、一〇年物国債の金利をおおむねゼロ%で推移するようにしているのだ。

この政策を遂行するため、日銀は膨大な量の国債を買い入れており、その額は二〇一九年六月だけで六・九兆円に達した。この積極的な国債買い入れ制度の結果、現在日銀は国債残高の五〇%近くを保有している。

日本は世界の先進国のなかで最も借金が多いとよくいわれるが、その債務の半分はすでに中央銀行が実質的に回収償還しているわけだ。

この割合を一気に一〇〇%に引き上げることも簡単だ。そうすれば日本は世界の先進国のなかで最も借金の少ない国になる。それも一夜のうちに。

実際には明日にでも、納税者から一銭も集めることなく実施できるのだが。

MMT派はこれを理解しているが、日本のような国(主権通貨の発行国)にとって債務をすべて返済するのがどれほど容易なことか、理解している人は多くない。

⇒参照・引用元:『財政赤字の神話』著:ステファニー・ケルトン,早川書房,2022年04月15日発行,pp162-165

『日本銀行』は国債発行残高のうち、ほぼ半分を買い入れて保有しています。つまり、これだけで半分は償還されていると見なせるわけです。

次に、残りの半分を『日本銀行』が全部買い入れたらどうなるよ、という話です。国債発行額の全てを『日本銀行』が持つわけで、つまり全部償還してしまうというわけです。

数少ない理解者の一人が経済学者のエリック・ロナガンで、二〇一二年に「日本が国債残高を一〇〇%マネタイズしたらどうなるか」という思考実験をしている。

日銀が国債をすべて償還したらどうなるか、を少ししゃれた表現にしただけだ。

日銀がすでに保有している国債を手に入れたのと同じ方法で、売り手の銀行口座の残高を増やすだけだ。

あくまでも思考実験なので、ロナガンは日銀が魔法の杖をひと振りして、それが実現したと想定する。

「日銀が明日、準備預金(貨幣)を創造し、日本国債の残高を全て買い入れたとしよう」。

さあ、債務は消えた。

インフレ、経済成長、通貨に何が起こるだろう」とロナガンは問いかける。

ロナガン見立てでは「日本国債の残高を一〇〇%マネタイズしたところで何も変わらない」。

ばかげた考えだと思う人もいるかもしれない。

日銀がいきなり五〇〇兆円を新たに生み出したら、とんでもないインフレが起こるに決まっている、と。

大方の経済学者は貨幣数量説(QTM)を何らかのかたちで刷り込まれている。フリードマン派などQTMを信奉する人々は「ジンバブエを見よ!」「ワイマール帝国だ」「ベネズエラ!」などと声高に叫ぶだろう。

それはQTMが「インフレはいついかなる場合も貨幣的現象である」と説くからだ。こう考える人々は、国債購入のために新たな貨幣を五〇〇兆円創造すると聞けば、すぐにハイパーインフレが起こると考える。

金融市場に身を置くロナガンは、もう少しものがわかっている。

日本国債と現金を交換しても、民間部門の純資産には何の変化もない、と正しく指摘している。

投資家は国債の代わりに「同じ価値を持つ現金を保有する」ようになっただけである。

日本国債の償還によって「純資産」は変わらないが、「収入」には確かに影響が出る。

それは国債には利子が付くのに対して、現金には利子が付かないからだ。日銀が国債を現金と交換することで、民間部門はそれまで得ていた金利収入をすべて失う。

このように国債の償還は民間部門から利子を吸い上げる効果がある。これを踏まえたうえで、ロナガンは問いかける。「総資産は変わらず、金利収入は減少し、物価は下落が続いてきた。そうしたなかで日本の家計部門が消費を増やす可能性はあるだろうか」と。

ひと言でいえば、答えはノーだ。

国債残高をすべて中央銀行のバランスシートで引き受ければ、物価は上がるどころか、むしろ下がるだろう。

民間部門から政府の発行する利子債をとりあげるのかと聞かれれば、私でも躊躇するだろうが、日本政府にその能力があるのは間違いない。

アメリカも同じである。
(後略)

⇒参照・引用元:『財政赤字の神話』著:ステファニー・ケルトン,早川書房,2022年04月15日発行,pp162-165

『日本銀行』が日本国債を持つ民間銀行から残り半分「約500兆円」分を全部買い取って、現金にしたって変わらないといっています。

つまり、国債を保有する民間銀行の貸借対照表には「資産の部」にこれが計上されています。

その分が現金になるだけで、

資産の部は増減しません。資産の額が変わらないのにスーパーインフレが起こったりしますかね、と問うているわけです。ただし、国債を購入することで「利子」を得ていた投資家はこれを失うことになりますよ――と付け加えています。

MMT的に考えれば、韓国の皆さんに日本政府の債務について心配していただかなくてもよいようです――というお話でした。

日本の心配など無用ですので、ご自身の国のことをご心配になった方が良いのではないでしょうか。韓国の場合、国債は外貨建てでも発行されていますし、その割合は日本よりもずっと大きいのですから。

ちなみに、ケルトン先生の『財政赤字の神話』は大変に面白い本ですので、ぜひ読者の皆さんもご一読くださいませ。

(吉田ハンチング@dcp)

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