読者の皆さまもすでにご存じでしょうが、駐仏中国大使の盧沙野さんがフランスメディア『TF1』のインタビューに応じて、とんでもない発言を行いました。
↑駐仏中国大使館の公式サイト。左上の、いかにも小役人然としているのが盧沙野大使。
盧沙野大使は、旧ソ連の構成国について「主権国家としての地位を明文化した国際合意はない」と主張し、欧州(特に旧ソ連に属していた国々)から反発の声が上がっているのです。
この反発に対して、中国の外交部は沈静化を図っているのですが、果たして日本メディアが書くように「火消しに躍起」というような対応でしょうか?
少なくとも「大使が失言して申し訳ない」といったしおらしい態度でないことは確かです(もっとも何があろうが中国がそんな態度を取ることは金輪際ないでしょうが)。
中国の外交部が定例記者ブリーフィングでどのような受け答えをしたのか、本件にまつわるところを全部引用してみます。
(本件に関連して)まず、ロシアメディア『タス通信』記者が質問に立っているところがもう恣意的です。
(前略)
『タス通信』記者:
先週金曜日、フランスのメディアとのインタビューで、駐仏中国大使の盧沙野氏は、クリミアの所有権について語る際「その質問をどう見るかによる」と述べた。歴史的には、クリミアは最初からロシア領でした。 ソビエト連邦の下で、フルシチョフがクリミアをウクライナに譲った。これに対して、中国はどのようなコメントを出しているのでしょうか。毛寧:
関連する問題に対する中国の立場は変わっていません。領土主権の問題では、中国の立場は一貫して明確であり、全ての国の主権、独立、領土保全を尊重し、国連憲章の目的と原則を堅持しています。
ソビエト連邦崩壊後、中国はいち早く関係国と国交を樹立した国の一つである。国交樹立以来、中国は常に相互尊重と平等待遇の原則を堅持し、二国間の友好・協力関係を発展させてきました。
中国はソビエト連邦解体後の構成共和国の主権国家の地位を尊重しています。
ウクライナ問題については、中国の立場は明確で一貫しており、国際社会と協力し、ウクライナ危機の政治的解決を促進するために独自の貢献をし続けることを望んでいます。
一部のメディアは、ウクライナ問題に対する中国の立場を意図的に誤解し、中国と関係国との関係を悪意を持って挑発しているが、我々はこれに対して警戒を怠らないようにしなければなりません。
『AFP』記者:
中国の駐仏大使はまた、旧ソ連共和国の主権は国際法上の確固たる根拠を欠いていると指摘した。リトアニア外相は――リトアニアや他の国は、駐仏中国大使の発言が中国ウクライナ問題で和平に向けて説得し、協議を推進するという建設的な役割を果たす中国の能力に自信を持てない理由であることを示している――と述べている。
中国外交部は、駐仏大使のコメントを支持するのか? 旧ソ連の主権が国際法上の確固たる根拠を欠いていると考えているのか。
毛寧:
旧ソ連は連邦国家であり、対外的には全体として国際法の主体としての地位を有していました。このことは、ソ連解体後の連邦共和国が主権国家としての地位を有することを否定するものではありません。
ウクライナ問題について、中国の立場は客観的かつ公正であり、また一貫して明確である。 中国は引き続き国際社会と協力し、ウクライナ危機の政治的解決を促進するために独自の貢献をしていくつもりです。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』記者:
駐仏中国大使の発言について補足して聞きたい。彼の発言は中国政府の立場を反映したものなのかどうか、明らかにしてほしい。
あるいは、一部の欧州首脳が要求しているように、中国側は問題の発言を撤回するのか? 大使の問題の発言が適切かどうか、外務省が支持しているかどうか、明示してほしい。
毛寧:
先程の発言が、中国政府の公式見解を表しているとはっきり言えます。『Bloomberg』記者:
駐仏中国大使のインタビュー全文は、大使館のウェブサイトに掲載された後、削除された。削除された理由をご存じなのか? 大使の発言のどの部分に問題があったのか?
毛寧:
ご指摘のような状況は知りません。『ロイター』記者:
質問は、駐仏中国大使の発言にも関連するものです。中国はウクライナを主権国家として認めているのか?毛寧:
これは既に明白な質問です。ウクライナは国連の正式加盟国であり、主権国家だけが国連の正式加盟国になれるというのは国際的な常識です。
中国は国連憲章の目的と原則、平和共存の5原則に基づき、ウクライナと良好な国家関係を築き、発展させてきました。不和をまき散らし、中国と関係国との関係を妨害し、損害を与えようとする試みは、下心があり、成功する見込みはありません。
『Bloomberg』記者の述べているとおり、中国外交部管轄のホームページから文書が削除されました。ただし、これは駐仏中国大使の発言を否定するものでも、撤回するものでもないようです。何も言っていませんから。
また、駐仏中国大使の発言を中国政府は支持しているのか?についても、何も答えていません。
業を煮やした『Reuters(ロイター)』の記者から「中国はウクライナを主権国家として認めているのか?」とド直球が来ましたが、「国連に加盟できるのは主権国家だけであり、ウクライナは加盟しているよね」と中国政府の判断がどうこうではなく、国連におっかぶせて逃げました。
字面どおりであれば、中国も「ウクライナを主権国家として認めている」ことになるはずなのですが……。質問をはぐらかして明言を避けたようにも見えます。
「ウクライナは主権国家ではない」と発言するような人物をフランス大使に据えるのですから、中国が「現在の国際秩序」に挑戦する国であることは明白です。
<<追記>>
盧沙野大使はテレビ局に乗せられた節もあるのです。どのような番組で、内容がどのように展開したのかは以下の記事にまとめていますので、もしよければご参照ください。
(吉田ハンチング@dcp)