韓国は1997年のアジア通貨危機の際に『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)の管理下に入り、財閥が解体されるなどそれまでの経済常識が通用しなくなりました。
いわば経済的な敗戦を韓国は経験したのです。
失業、離職など困難を経験した人のみならず、多くの人にとっていまだにアジア通貨危機は抜きがたいトラウマとなっています。
そのため、韓国を管理下におき差配した『IMF』は時に韓国では死神と呼ばれることがあります。
しかし、(アメリカ合衆国の意を受けた)『IMF』が「支援を行った」ことに変わりはありません。確かに現在の基準からすれば、とにかく言うことを聞かせて無茶をした面はあります。ですが、支援によって韓国が立ち直ったのも事実なのです。
『IMF』からすれば死神などと呼ばれるのは不本意なことでしょう。
『IMF』太平洋局長「考え方が無責任」
韓国メディア『中央日報』が、イ・チャンヨン『IMF』アジア・太平洋担当局長にインタビューした記事を2021年01月05日に上げています。
少し長くなりますが、注目ポイントを以下に引用します。
(前略)
Q.韓国もコロナ対応過程で財政を多く投入して負債比率が増加した。与野党共に財政の積極的な役割を取り上げているが、韓国の財政余力をどのように評価するか。A.「2020年末、アメリカ合衆国と日本のGDP対比国家負債比率がそれぞれ128%と247%であるのに対し、韓国の国家負債比率が45%程度だから財政余力があるように見えるのが事実だが、もう少し長く見れば事情はそうではない。
国会予算政策処の見通しによると、韓国の国家負債比率は2030年75%、2040年104%に急増する。
さらに、この見通しは今後、コロナ事態のように大きな危機が再び訪れたときに自営業者損失補償金のように避けられない、行わなければならない裁量的支出の増加を考慮していない数字である。
早い時点で国家負債比率が100%を超える可能性がある。
高齢化傾向などを勘案すれば、GDPに対する国家負債比率が急速に増加するという話はあまり新しくない。過去の財政当局が金科玉條と考えていた国家負債比率40%マジノ線は、今は誰も話していない」
「グローバル金融危機以前は、国家負債比率を先進国は60%、開発途上国は50%以下で管理することが望ましいとされてきた。
危機とコロナ事態に対応する過程で先進国の国家負債比率が100%を超える水準に大きく増加し、少なくとも先進国に関する限り、この準則は有名無実になった。
金利が低くなって政府の利子負担が減少し、適正な負債比率が高まったという主張も説得力を得ているが、開発途上国に対しては以前の準則に対する信念が続いているようだ。
先進国の金利が大幅に低くなった現実を反映して、全ての国に適用できる共通の基準を探すより、個々の国家状況を反映して適正な国家負債比率を求めようとする試みが進行中だ。
このような状況で、国家負債比率が増加するのなら、租税収入で利子費用を余裕で負担できるのか、民間貯蓄が増加する国債を消化するのに十分なのか、海外信用や為替レートに及ぼす影響がどうかなどが重要な判断基準となっている。
韓国に適用するなら、国家負債比率40%をマジノ線として守らなければならないという考えも過度に硬直的だが、合衆国・日本のように韓国の国家負債比率が100%近くに短期間に急増してもなんら副作用がないと主張することも無責任と見られる。
Q.韓国が国家負債比率100%を超えると生じる危険は?
A.「国家負債が急速に増えれば発行金利が高くなり、政府の利子給付の負担が大きくなる。(中略)先進国のように量的緩和政策を通じて中央銀行が国債を買えば良いという極端な見解まで出ている。
しかし、中央銀行を動員して国債を買い入れると流動性の増加でインフレや不動産価格の上昇、為替レートの下落など他の副作用を避けにくい。
また、国家負債比率が高まると、グローバル金融危機のような大きな経済危機が発生したとき、政府の対処能力が制限され、国家信用度に影響を与えるだろう。
民間金融機関の国債保有量が大きく増えた時、国家信用が下落して国債の価格が落ちれば、民間金融機関の健全性も同時に下落して危機を相互増幅させるだろう。
すでに最近、国債金利の上昇による評価のため、国内保険会社が資本拡充に乗り出す事例も現れている」
(後略)
かつての「政府負債は対GDP比率40%まで」というのを金科玉条のように守るのもいきすぎだが、「合衆国、日本のように100%を超えても大丈夫」というのも無責任と、イ局長ははっきり指摘しています。
40%を破ってぐいぐい政府負債を増やしたのは現文在寅大統領ですし、「韓国は先進国だから政府負債対GDP比率が100%を超えても大丈夫」(なにが大丈夫なのか)と言ったのは次期大統領候補の李在明(イ・ジェミョン)さんです。
「国家信用が下落して国債価格が落ちれば、民間金融機関の健全性も同時に下落して……」というのは、ちょっと分かりにくいかもしれません。国債をどんどん発行したとして引き受けるのは金融機関なわけですが、これで国の信用度が下がると、当然その国の国債の価格が下がります。
国債の価格が下がると利回りは上がるのですが、国債を保有している金融機関にとっては、国債の価格下落は資産価値が目減りすることになります。当然資産が減少したことになるので、巨額の国債を保有している場合には⇒「民間金融機関の健全性も同時に下落して危機を相互増幅させるだろう」とイ局長は言っているわけです。で、すでに民間の保険会社で「資本拡充」に乗り出しているところもある、と。
総じていえば、合衆国や日本のような先進国ではないので「政府負債の対GDP比が増加すること」は、韓国の国家の信用を落とすことになり、その副作用はとても大きなものになりますよ――と指摘しています。
韓国の考えは関係ない! 国際金融市場が決めることだ
「じゃぶじゃぶ国債を発行すると危ないよ」という件については、イ局長は以下のようにも説明しています。
(前略)
「合衆国の国家負債比率は、2010年の50%水準から2020年に128%に急激に増加したが、大きな副作用はなかった。これが事実だ。日本、イタリアも国際化された通貨を保有した先進国だが、合衆国ほどの特権を享受できなかった。
(韓国が:筆者注)他の先進国のように国家負債を大きく増やしても問題がないという主張はあまりにも安易に見える。
実際、この問題は私たち(韓国:筆者注)が一人で決定できる問題ではない。
韓国の国家負債比率が60~70%以上に急速に増加するとき、国際金融市場が韓国を合衆国、日本のように扱って大きな問題がないと思うのか、それともOECD加盟国ではあるが、基軸通貨を保有できなかったトルコ、メキシコと同じグループだと考えて投資資金を回収するのか、がより重要な問題だ。
ウォンは国際通貨ではないため、後者の可能性がより大きいと見ている。
(後略)
イ局長は非常に重要なことを述べています。
韓国が国債をじゃぶじゃぶ発行して政府負債の対GDP比率を例えば60~70%に上げたとき、それでも大丈夫かどうかは、韓国ではなく、国際金融市場が決めることだ――という指摘です。
全くそのとおりで、韓国政府は大丈夫と思っていても、国際金融市場が「韓国はもう駄目だ」と判断して、資金を急速に引き上げたらそれで「おしまい」です。
つまり、韓国がどう思ってようが全く関係はありません。
韓国では自身を相対化して見られない政治家、識者が多いですが、イ局長の指摘はまさに金融においてもそうであることをズバリ突いています。
韓国は自身が先進国であるから大丈夫であると独り合点し、合衆国や日本のように政府負債をどんどん増やしても大丈夫と考えています。しかし、危ないかどうかは国際金融市場が判断することであって、韓国の考えを忖度したりはしないのです。
――というわけで、韓国はいかん方向に進んでいますよ、という『IMF』イ局長の苦言でした。
しかし、韓国は止まらないでしょう。李在明(イ・ジェミョン)さんが大統領になったら余計です。
(吉田ハンチング@dcp)