読者の皆さまもご存じのとおり、韓国産の「テラ」(そしてルナ:後述)という暗号資産が大暴落して価値が「ほぼゼロ」という事態になりました。
これを開発したのはクォン・ドヒョン(別名ド・クォン:Do Kwon)という人物で、「韓国のイーロン・マスク」という異名を取ったこともあります。テラおよびルナは「Terraform labs」という会社によって発行・運営されています。
「テラ」がどういうものであったのかをご存じの方は、以下の小見出しのブロックを飛ばしてその次の小見出しまで移動してください。
「テラ」の仕組みと暴落
テラはいわゆる「ステーブルコイン」(StableCoin)と呼ばれるもので、価値が「1ドル」になるように設計されている――という触れ込みでした。
Money1では、以前「IRON Titanium Token(TITAN:タイタン)」という暗号資産がわずか12時間でほぼ無価値になった件をご紹介したことがあります。この「タイタン」もステーブルコインでした。
ステーブルコインというのは、その性格上、ほとんど価値は変動しません。そのため、自身の資産価値を安定的に保有するという目的のために選ばれます。例えば、ウクライナ戦争によって自身の資産が危なくなって、しかも外貨に換えられないといった場合には、まさに最適の選択と見えるわけです。
しかし、例えば「1某コイン = 1ドル」といった価値を保全するには、それに見合ったドルが要ります。これは当たり前の話で、その某コインの保有者がみんなドルに換えたいとするなら、その分のドルが要るからです。
ですのでステーブルコインの発行にはその裏付けとなる資産が要ります。ステーブルコインの代表格である「テザー(USDT)」は「裏付けとなる資産を保有している」となっていて、それによって価値が保証される――と認識されています。
ところが、テラ(UST)の場合にはこの裏付資産は全くありませんでした。
どうしたかというと、「テラ」と裁定取引(アービトラージ)が可能な「ルナ」という暗号資産を裏付け資産としたのです。ここがユニークな点です。
この「ルナ」は「テラ」とコインの裏表のような関係で、テラの価値を1ドルに安定させるために機能するようになっていました。
例えば、「テラ」の価値が「0.9ドル」に下がった場合、「1テラ」を買って「1ルナ」に換えると「1ドル」の価値になります。
暗号資産を取り引きする人は労せずに「0.1ドル」もうけることができます。
つまり、「テラ」の価値が下がればスグに買いが入って「テラ」の価値も維持される――という仕組み(目論見)だったわけです。
急所はどこかというと、裏打ち資産となる「ルナ」の価値が維持されるのかどうかです。つまり、実際の法定通貨や金といった現物資産がなく発行されているわけですから、「ルナ」の価値が落ちていくと、「テラ」も当然価値を維持できないということになります。
これは、特に「テラ」だけの問題ではなく、裏打ちとなる資産が「裏打ちとなる資産を全く持たずに発行されたステーブルコイン」の場合どれも同じです(ややこしい)。
05月09日までは、「テラ」も高値を維持していました。ところが翌日になって大きく崩れます(チャートは『coinmarketcap.com』より引用)。
「テラ」の価値が下がりしかも戻せないという事態に発展しました。
本来であれば買いが入って「ルナ」に換えることで維持されるはずでした。
ところが、「ルナ」に換えてこれを売却するという動きが大きくなっていたのです。つまり、買いが入ると「テラ」の価値は上昇しますが、一方で「ルナ」に換えて売却が進むので「ルナ」の価値は下がり、裏打ち資産の価値が下がっていきます。
「テラ」の価値を保証する資産が減少するわけですから、当然取り引きする人は「危ない」と判断します。「売ろう!」となって当然です。
つまり、投資判断の臨界点が05月10日だったわけです。売りの奔流が「テラ」を襲いました。先にご紹介した「タイタン」と同じく「取り付け騒ぎ」(bank run)が起こったのです。
「テラ」の大暴落を予見して空売りして大もうけ
目端の利く人というのはいるものです。「テラ」の大暴落を予見し、空売りで大もうけした人がいらっしゃいます。
2022年05月16日、韓国メディア『中央日報』がこの人に取材を行い記事にしていますので、以下に一部を引用します。
(前略)
Q.いつルナの暴落を予想したのか。「去る02月、ロシアとウクライナ戦争と共に急騰した『ウェーブ』というコインが04月に暴落するのを見た。原因を分析してみると『ウェーブ』と連動した『ニュートリノドル(USDN)』というアルゴリズムベースのステーブルコイン(価格が1ドルに固定されたコイン)のためだった。
『ニュートリノドル』を発行して集めたお金で『ウェーブ』を購入して価格を上げる循環構造が問題だった。
『ニュートリノドル』が1ドルを維持できずに『ウェーブ』が崩れた。
ところが『ルナ』と『テラ』も同じ構造を持っていた。『テラ』の価格が1ドルが崩れた時点で同じ問題が破裂すると予想した」
Q。ルナとテラの仕組みをポンジ詐欺と見た理由は。
「『テラ』には何の価値もありません。『テラ』を持っていても何も買うことができないからだ。『テラ』に対する実際の需要を作るために、『Terraform labs』は銀行の役割をする「アンカープロトコル」を作った。
現金で『テラ』を買ってここに預ければ年19.4%の利子を支給するとした。預金が集まった。『テラ』を借りると貸付金利は年12.4%だった。逆マージンだ。
市中銀行も逆マージンが出る特販商品を売るが限度は決まっている。テラは上限がなかった。
市場でお金が入らなければ利子を与えることができない仕組みだ」
Q.テラ設計者もポンジ詐欺だと分かったのだろうか。
「テラのシステム全体がポンジ詐欺だと断定することはできない。
しかし、アンカープロトコルだけ切り離してみると維持が不可能な構造だ。
『Terraform labs』は、テラが今後、実際の価値を持つように構想したようだ。『テラ』で取り引きできるプラットフォームを増やし、『テラ』ベースのゲームを発売しようとした試みもあった。
しかし、異常に高い利子のため、テラが実際の価値を持つまで支給準備金に耐えられなかった。設計者にも耐えられないことははっきり理解していただろう。あまりにも単純な計算だ。
(中略)
Q.ルナ事態でステーブルコインに対する信頼が墜落した。最も規模の大きいテザーも(事態から)数日目に1ドルを回復できていない。
「テザーも注意しなければならない。今回の事態で、ステーブルコインに対する投資家の信頼が壊れ、米国政府が規制する名分ができたからだ」
(後略)
このAさんは、「テラ」暴落の日を予想し、空売りを仕掛けて大きな利益を上げたとのこと。
Aさんは、「価値がない」と断言する暗号資産に投資する理由について「これまで暗号通貨取引は取引所間差額取引でのみ収益を出した。今回の空売りの取引は価値がゼロになるということに投資したのだ」と述べています。
(吉田ハンチング@dcp)