ウォン安が進行しているので、韓国では「通貨スワップ」待望論が盛り上がっており、アメリカ合衆国・バイデン大統領が訪韓するのに併せて要求すべきという話が出ています。
しかし、先にご紹介したとおり、尹錫悦(ユン・ソギョル)新政権大統領室の金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長が「通貨スワップ」という言葉は「使えない」と表明しています。
これについて韓国メディア『edaily(イーデイリー)』に興味深い記事が出ました。金第1次長の言葉を伝えているのですが、以下に該当部分を引用します。
(前略)
金泰孝(キム・テヒョ)国家安全保障第1次長は19日、『edaily』との通話で、韓米首脳会談をきっかけにドルを調達できる手段を設ける案について「韓米首脳会談合意文(共同宣言文)が出たら、議論を続けていくだろう」と前置きし、「連邦準備制度(FED)が了解する線で議論が進んでいる」と明らかにした。ただ、通貨スワップの常設化については「常設を話すのはちょっと早いようだ」としながらも「(具体的なスキームなどが)これから出るだろう」と話した。
(中略)
これにより、米韓首脳会談直後に発表される共同宣言文には、具体的に「通貨スワップ」という言葉が明示されるのではなく、「通貨協力を強化する」程度に表現した後、首脳会談後に連銀と『韓国銀行』が交渉の当事者になって具体的な通貨スワップ開設などを議論すると思われる。
(後略)
うまい手です。米韓首脳会談後の共同宣言に「通貨協力を強化する方向で合意した」ぐらいの文言が入っていれば、韓国の顔は立ちますし、「後は協議しまーす」で問題を先送りできます。
「通貨スワップという言葉は使えない」としたのはこれの伏線だったと考えられます。つまり「通貨スワップという言葉が入っていなくてもがっかりするな」というわけです。
後で連銀が門前払いするとしても、「通貨協力を強化する方向で合意した」ぐらいの言及があれば、韓国側はとりあえず今回の首脳会談は成功裏に終えた、と言い張ることができそうです。
また、以下の部分も注目ポイントです。
(前略)そのため、通貨スワップはまるで「危機」の別の言葉と解釈されたが、尹政府が推進する「通貨スワップに準ずる実質的なドル調達案」は既存フレームとは異なるアプローチと解釈される。
例えば、カナダ、イギリス、ユーロ圏、日本、スイスの5カ国は、危機時でなくてもいつでもドルを調達することができる常設通貨スワップを結んでいる。
これに準ずる通貨スワップを結ぶという観測が出ている。
(後略)
尹政権が推進しているという「通貨スワップに準ずる実質的なドル調達案」というのがどのような内容なものなのかがまず分かりません。
合衆国『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)からすると、「FIMA※があるだろ」というかもしれません。韓国側が「なんか考えてくれよ」と言っていたら面白いのですが。
また、「常設に準じる通貨スワップ」という不思議な言葉が登場しています。
「常設に準じる通貨スワップ」がいかなるものなのかは大変に気になるところです。
まず、米韓首脳会談が終わった後に出るであろう「共同声明」にどんな文言が盛り込まれるのか、「通貨協力の強化」といった文言が入るのかどうかにご注目ください。
明日、2022年05月21日、共同声明が出たらまたご紹介します。
※「FIMA Repo Facility(フィマ・レポ・ファシリティー)」。FIMAは「Foreign and International Monetary Authorities」の略です。
FIMAアカウントホルダー(各国の中央銀行およびNY連邦準備銀行に口座を持つ国際通貨当局)が「自身の持つ合衆国公債」を、『FRB』と「後で買い戻す」という契約を結んだ後に、ドルに換えることができる(システム・オープン・マーケット・アカウントに売却してドルを得ます)――というシステムです。
簡単にいえば、保有する合衆国公債を一時的に現金のドルに換えられるわけです。ただし、後で買い戻さなければならず、また期限(契約期間)は基本「一晩」です(ただしロールオーバーは可能)。さらに当然ながら金利も付きます。
(吉田ハンチング@dcp)