『Financial Times』が興味深い記事を出しています。
「Chinese economists told not to be negative as rebound falters」(中国のエコノミスト、景気回復の遅れでネガティブになるなと言われる)というタイトルです。
簡単にいえば、「中国経済の暗い見通しを述べるな、明るい話をしろ」と中国共産党政府から箝口令を敷かれているというのです。
実際には、中国のリオープニングなど信用できない情勢となっており、識者からは「中国はデフレに突入しているのではないのか」という指摘がされています。
『朝日新聞』の記者が『中国人民銀行』の劉国強副総裁に「2023年上半期金融統計」について質問した際にも、「デフレじゃない」と4回も述べています(以下の先記事を参照してください)。
『Financial Times』の記事の一部を以下に引用してみます。
(前略)
一流大学や国営シンクタンクに所属する複数の地元証券会社のアナリストや研究者は、規制当局や雇用主、さらには国内メディアから、資本逃避の懸念から物価の軟化に至るまで、否定的な発言を避けるよう指示されていると語った。著名なエコノミスト7人が弊紙に語ったところによると、雇用主から「幾つかのトピックは公開討論の対象外だ」と告げられたという。
株式監督機関である中国証券監督管理委員会は、「消費者需要の低迷、輸出の減少、不動産セクターの不振に苦しむ経済が直面しているリスクを、証券会社のアナリストが誇張している」と非難している。
シンクタンクの学者2人と証券会社のエコノミスト2人は、いずれも政府の顧問を務めており、国民の信頼を高めるために経済ニュースをポジティブに伝えるよう圧力がかかっていると述べた。
(後略)⇒参照・引用元:『Financial Times』「Chinese economists told not to be negative as rebound falters」
「経済状況が悪化していることをストレートに伝えるな」といわれているのです。記事内の「経済ニュースをポジティブに伝えるよう圧力がかかっている」という記述は、『朝日新聞』の記者が劉国強副総裁から言われたこととも符合します。
劉国強副総裁は、「マクロ経済を見る際には、問題志向を堅持するだけでなく、体系的な概念を持ち、ポジティブな面を見るべきだと考えています」と述べました。
中国経済のポジティブな面を見てくれという要求です。しかし、実際にポジティブな面がなければ、伝えることはでききません。
中国経済がリオープニングに失速しているのは事実ですし、若い世代が最悪の就職難に直面しているのも本当です。
今回の『Financial Times』の「箝口令」報道については、台湾メディア『台湾中央通讯社』も記事にしています。同紙記事から一部を以下に引用してみます。
(前略)
あるアナリストは、信頼できるデータの入手が困難な市場で投資家がしばしば頼りにする経済調査の専門家が自己検閲を強めていることは、北京が情報の統制を強めていることを示していると述べた。香港を拠点とする『オリエント・キャピタル・リサーチ』のマネージング・ディレクター、アンドリュー・コリアー氏は、どの国も景気減速を懸念しているはずだが、中国は世界に対して虚勢を張る傾向があり、指導者は特にイメージに敏感であるため、「これら3つの要因が組み合わさることで、非常に不透明な経済になっている」と指摘した。
(後略)⇒参照・引用元:『台湾中央通讯社』「中國經濟吹寒風 北京施壓專家學者少談壞消息」
「経済調査の専門家が自己検閲で口をつぐむ」と、いったい投資家は誰を信じればいいのでしょうか。
また、「景気減速懸念」「中国の虚勢を張る傾向」「中国の指導者の面子」という3つの要素が組み合わさって、中国経済の現状が非常に不透明になっている――という指摘は正鵠を射ています。
「中国が正しい統計を公開しているのか?」という疑念も4つ目の要素に加えることができるでしょう。
実際、アナリストと呼ばれる人が、当局が嫌がる「デフレ」という言葉を避けて「弱いインフレ」などという言葉を使ったりしています。
2023年の中国の消費者物価指数(CPI)は、
01月:2.1%
02月:1.0%
03月:0.7%
04月:0.1%
05月:0.2%
06月:0.0%
と対前年同月比で推移しています。これが07月にはマイナスに転じるのではないかと見られています(『wind』では平均「-0.47%」予測)。これが弱いインフレで済む話でしょうか。
中国政府が箝口令を敷いているとのことで、アナリストの意見も信用できなくなってきました。
(吉田ハンチング@dcp)