韓国の統計局は合計特殊出生率※が2023年に「0.72」に下落したことを公表しました。
先の記事でご紹介しましたが、都市・道などの地域ごとの数字を盛り込み損ないましたので、まずその結果をご紹介します。
以下が「市区町村別 出生児数と合計特殊出生率」です。
↑「市区町村別出生児数と合計特殊出生率、2023暫定版」のデータ。以下に都市・道ごとの合計特殊出生率を抜粋ソウル特別市:0.55
釜山広域市:0.66
大邱広域市:0.70
仁川広域市:0.69
光州広域市:0.71
大田広域市:0.79
蔚山広域市:0.81
世宗特別自治市:0.97京畿道:0.77
江原特別自治道:0.89
忠清北道:0.89
忠清南道:0.84
全羅北道:0.78
全羅南道:0.97
慶尚北道:0.86
慶尚南道:0.80
済州特別自治道:0.83
全国:0.72⇒参照・引用元:『韓国 統計庁』公式サイト「2023年出生・死亡統計(暫定)」
人口の多い都市部の方が合計特殊出生率が悪くなるものですが、ソウルは「0.55」しかありません。男女の出会いが多いはずなので、人口の多い都市部でこそ、なんとか増えないものか?――なのですが――そうはならないのです。
先にご紹介した第3四半期時点では、
ソウル:0.54
でしたから、通年ではわずかですがマシになったわけです。暫定版ながら2023年が締まったわけですが、なんとか0.7台で済みました。
しかし、2024年は0.6台に落ちるという予測がすでに出ています。
なんとかしなきゃ――なのですが、韓国政府の施策は「補助金を出します」オンリーとなっています。しかし、それだけでは駄目だろう――と専門家が指摘しています。
今から高負担・高福祉社会にするのか?
2024年02月28日、合計特殊出生率「0.72」という韓国史上最低(もちろん世界最悪)の結果が公表されて、識者が声を上げています。言っていることはほぼ同じで――「長期的観点から一貫性のある対策を立てなければならない」です。
「それができなかったので、こんなことになっているんだよ」「今からで間に合うのか」――という突っ込みはともかく、例えば、『高麗大学』経済学科教授のキム・ジンヨンさんは、
「欧州諸国を見ると、経済活動に参加する女性たちの出産率がむしろ高いという研究結果がある。育児休業や出産休暇などの政策が効果を出しているためだ」
と指摘し、お金をまくことばかり考えずに、子育てのための福祉対策にもっと注力すべきと述べています。
『韓国保健社会研究院』研究委員のイ・サンリムさんは、
「子供を持つ女性が職場で気を使わなくてもいい社会文化が造成されなければならない。出産したからお金を与えるというのは、模範解答ではない」
と指摘しました。また、『ソウル大学』社会福祉学科のアン・サンフン教授は、
「女性の大学進学率が男性を上回り、経済活動参加率も着実に上がっているが、依然として労働市場には家父長的文化が残っている。北欧やフランスなど出産率の反騰に成功した国々を見ても、文化を変えるのに20~30年かかった」
と指摘。
総じて、お金をまくだけでは駄目で、韓国社会の雰囲気や社会構造を変えないと……と言及しています。
しかし、そもそも高負担・高福祉社会である(それを構築してきた)北欧と、低負担・低福祉で「ままよ」と突っ走ってきた韓国を比較し、北欧のようになれば……と考えるのはいかがなものでしょうか。
今から、高負担・高福祉の国を始めるという選択が韓国にできるでしょうか。
それだけでは暮らせないという高齢年金しか給付できず、老人の貧困率が高いのが韓国です。しかも給与水準は決して高いわけではありません。若い世代の人口も減っています。所得の低い自営業者の(就業者に占める)比率は20%になるのです。
このような状況で高負担に切り替えて、子育てのための福祉対策に注力できるでしょうか。
アン教授の「依然として労働市場には家父長的文化が残っている」という指摘は、男女間の分断が深まっている韓国にとっては「嫌」な指摘でしょう。子作り・子育てというのは、男女が協力して行うことです。男女間で深い溝がある韓国でどうして出産数が増えるでしょうか。
先にも、『韓国銀行』のリポートを引いてご紹介しましたが、韓国の深刻な合計特殊出生率の低下は、社会的な原因に起因しており、それをお金で解決しようというのが、どだい無理なのです。
しかし、「20~30年かかってもやるのだ」という透徹した意思があるのであれば、挑戦してもいいでしょう。世界的にも注目すべき「実験」になります。
※合計特殊出生率は「女性一人が15歳から49歳までに出産する子供の数の平均」です。この数字が2.2ないと人口は増えていかないといわれます。
(吉田ハンチング@dcp)