韓国では第2次補正予算を31兆8,000億ウォンまで拡張し、2025年度の支出予算を700兆ウォンまで増やしました。この財源はほとんどを赤字国債によって補填します。
大丈夫なの?――という話ですが、実は韓国の『NABO』(国会予算政策処)も警告する文書を出しています。借金を野放図に増加させることは危ない――という警告ですが、韓国政府はどこ吹く風です。
韓国はハードカレンシーではなく、吹けば飛ぶよなウォンというローカルカレンシーを持つ国なので、余計危ないのです。今回は「ハードカレンシー国ではない」という点から、韓国政府の持続可能性についてご紹介します。
吹けば飛ぶよなウォンなので……
ハードカレンシーでないことの主な影響は以下の3点です。
1. 自国通貨建て国債であっても外部ショックに脆弱
韓国の国債は大部分がウォン建てですが、それでも外国人投資家の保有比率が高い(2025年時点で約24%)ことにより、為替変動や金利差による資本流出のリスクが常に付きまといます。
この構造の中では、日本のように「事実上、国内で国債を消化しているので自国通貨を刷って返せばいい」という論理が成り立ちません。
通貨の信用が脆弱な国では、財政拡張の限界点が非常に低いのです。
2. 通貨防衛の必要=財政政策の制約
外貨建て債務がなくても、通貨急落を防ぐために中央銀行が利上げを強いられる可能性が高くなります。これが以下のスパイラルを生むのです。
財政赤字⇒国債増発⇒金利上昇・通貨下落⇒資本流出懸念⇒金利引き上げ⇒景気悪化⇒財政赤字
通貨信認の脆弱さは、金融政策と財政政策の“同時制約”をもたらすという意味で、韓国の政策余地を大きく狭めます。
3. ソブリン格付けの制御不能リスク
IMFや格付け機関は、ソフトカレンシー国に対しては、財政赤字の規模そのものだけでなく「通貨危機を誘発するかどうか」という視点から見ています。よって、韓国のような国では:
財政健全性が“市場の信認”に直結
国債利回りが国際リスク(米金利・地政学など)に大きく左右されやすい
それゆえに、韓国財政には「信認の崖」が存在します。
日本のようなハードカレンシー国では、極端な財政赤字でもすぐに金利が急騰することは起きません。しかし韓国では、財政赤字と通貨・金利の連動性が非常に高く、信認を一度失うと一気に危機へ陥る「崖の構造」があります。
つまり韓国の財政運営においては、
財政赤字の“質”(赤字性債務の比率)
国債市場への依存度
外部金融環境(米利上げ・リスクオフ相場など)
これらを常に統合的に見なければならず、財政拡張は「慎重すぎるくらい慎重でちょうどいい」というのが現実的な対応だと思われるのです。
信任の崖――とは何か?
中島みゆきさんの歌に「今崩れゆく崖の上に立ち♪」という歌詞がありますが、韓国はそのような状態に見えます。
韓国の財政には「信認の崖(cliff of credibility)」が存在し、その閾値が事前には分からず、しかもそれを決定するのは政府ではなく市場であるという点に、最大のリスクがあります。
「信認の崖」とは、政府や中央銀行の財政・金融政策が市場からの信頼(信認)をある程度まで維持していたとしても、ある臨界点を超えると一気に信頼が崩壊し、通貨暴落・金利急騰・資本流出といった危機的状況に陥る現象を指します。
これは日本のようなハードカレンシー国では“理論上のリスク”にとどまりますが、韓国のようなソフトカレンシー国では現実の脅威です。
Money1では何度もご紹介していますが、この臨界点というのは、事前には分かりません。閾値がどこにあるのかは市場が決めるからです。
分かっていれば(あるいは計算で算出できるなら)、政府負債を対GDP比◯%までにしておこう――といった予防もできるのですが、それが不可能です。
1. 市場が決める
韓国政府が「GDP比60%以内」などの基準を設けたとしても、それが市場の信任を保証するわけではありません。市場(特に外国人投資家)は、
外貨準備の水準
政治的安定性
米国との金利差
通貨のボラティリティ
対外債務・資本流動性
など複数のファクターを加味して「いつまで持つか」を総合的に判断しています。
2. 一度崩れると回復困難
信認の崖を一度超えると、市場の再信頼を得るには非常に大きなコスト(高金利・緊縮・通貨防衛策など)が必要。
『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)の支援に頼るか、自力で金利急騰を受け入れるしかないケースもあります。
1997年のアジア通貨危機のときはまさにこれでした。外貨準備高が極端にやせ細り、もう自国だけでは外貨建て債務を支払い不能という状況に陥りました。
日本は政府債務がGDP比230%を超えていますが、国債金利は低位安定、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドも韓国より低いです。
これは以下の要因によるものです:
通貨の国際的信認が高い(円はハードカレンシー)
⇒ウォンは地域通貨に過ぎない
債務のほぼ全て円建て
⇒韓国は外国人保有比率が高い(約24%)
外貨準備高は世界有数(1兆ドル超え)
⇒韓国は高水準だが相対的に少ない
日本は政治的安定・制度信頼が非常に高い
⇒韓国は相対的に不安定要因あり
つまり、日本の財政持続可能性は「通貨・制度・政治への信認」によって守られており、指数の絶対水準とは直結していません。
早い話が、韓国は「GDP比◯%未満」という数値管理に頼るのではなく、市場からどう見られるか(CDS、為替、金利、外国人投資家の動向)をリアルタイムで監視し、管理する能力が必要です。
韓国の財政の持続可能性は、実体経済の指標だけでなく、“見えない信認の閾値”に依存しており、その閾値を決めるのは市場です。
したがって、「財政はまだ大丈夫」と思ったときには、もう信認の崖の縁に立っているかもしれなのです。その自覚を基に、慎重な政策運営と透明な市場コミュニケーションが求められます。
韓国の財政拡張はあまりにも野放図です。まさか「誰かが徳政令を出してくれる」などと考えているのではあるまいな――です。
※韓国の『NABO』が第2次補正予算についてどのように述べているのかは別記事にいたします。
(吉田ハンチング@dcp)