2021年05月27日、アメリカ合衆国上院で上程された「US Innovation and Competition Act of 2021(合衆国イノベーションおよび競争法)は、中国との全面衝突へ進む包括的な法案です。
まず『合衆国共和党政策委員会』公式サイトの説明を以下に引きます。
NOTEWORTHY
Background: The United States Innovation and Competition Act is comprised of bills reported out of the committees on Commerce, Science, and Transportation; Foreign Relations; Homeland Security and Governmental Affairs; Banking, Housing, and Urban Affairs; Health, Education, Labor, and Pensions; and the Judiciary. It is intended to help address the rising military, geopolitical, and economic competition from China. Notable bills in the package include versions of the Endless Frontier Act, the Strategic Competition Act, and the Meeting the China Challenge Act of 2021.
注目ポイント
背景:
「合衆国イノベーションと競争法」は、商務・科学・運輸委員会、外交委員会、国土安全保障・政府問題委員会、銀行・住宅・都市問題委員会、保健・教育・労働・年金委員会、司法委員会から報告された法案で構成されている。この法案は、軍事的、地政学的、経済的に高まる中国との競争に対処することを目的とする。
本法案には「Endless Frontier Act」(無限フロンティア法)、「Strategic Competition Act」(戦略的競争法)、「Meeting the China Challenge Act of 2021」(中国の挑戦への対処法)などが含まれる。
この法案の「背景」には、はっきりと「中国との競争に対処するためのもの」と書かれています。
合衆国は明確に中国を競争相手(より露骨にいえば敵)と認めてこの法案を作っているのです。また、この法案は各分野・機関からの法案を含む、非常に大部(PDF版で全1,445ページ)の包括的内容となっています。
「Division A」では、中国との競争に勝つために「半導体」と「O-RAN 5G」への緊急支出を定めています。
「Division B」は「Endless Frontier Act(無限フロンティア法)」で、
2.高性能コンピューティング、半導体、高度なコンピュータ ハードウエアとソフトウエア
3.量子情報科学技術
4.ロボット工学、自動化、高度な製造
5.自然災害および人為的災害の防止または軽減
6.高度な通信技術と没入型技術
7.バイオテクノロジー、医療技術、ゲノミクス、合成生物学
8.データストレージ、データ管理、ブロックチェーン・テクノロジー、および生体認証を含むサイバーセキュリティ
9.高度なエネルギー、バッテリーを含む産業効率技術、および発電を目的とした高度な原子力技術
10.複合材料および 2D 材料を含む高度な材料科学
という重点テクノジー分野を設定し、これらへの投資を促進する内容です。ここまではまあ穏やかではありますが……。
中国を打倒するための内容が山盛り!
「Division C」は「Strategic Competition Act of 2021」(戦略的競争法)で、
中国に関連したグローバルなサプライチェーンの多様化と管理問題について、合衆国国務省に合衆国企業を支援する権限を与える。
としています。民主党の説明では、
「戦略的競争法」は、中華人民共和国(PRC)がもたらす、国家および経済の安全保障についての課題に合衆国が効果的に立ち向かえるようにするための超党派的な取り組みである。
となり、中国が合衆国の経済、安全保障について脅威であることをより鮮明に述べています。
このディビジョンCは、本当に中国を怒らせ、同時に合衆国の本気を示す内容です。共和党の説明によれば、この中には、以下のようなものが含まれています。
●他の先進的な民主主義国との技術協力を進めるために、国務省内に技術提携事務所を設立する。
●中国との競争における制裁と制限の使用の重要性を強調する。
●合衆国と台湾の関係を合衆国のインド太平洋戦略の重要な部分として宣言し、台湾関係法と「6つの保証」※に基づく台湾へのコミットメントを強化する。
●台湾に防衛費を増やすよう求め、台湾の非対称防衛戦略の実施に対する合衆国の強いコミットメントを強調する。
●国連、WHOなどの国際機関に台湾を含めるよう求める。
●COVID-19 パンデミックの起源に関する機密扱いでない合衆国政府の報告書が必要である。
●二国間および地域支援に20億ドル、外交関与に13億ドルを含む、国務省の人員とインド太平洋に専念する資源を増やすための追加資金と行動計画を承認する。
●インド太平洋地域の国際軍事教育および訓練と対外軍事融資のための追加資金を承認する。
●インド太平洋の同盟国およびパートナーとの高度な能力開発を優先し、国の技術および産業基盤国内での協力を奨励する。
●国際開発銀行の合衆国代表に、中国への追加支援に反対する権限を与える。
●2026会計年度までのアジア再保証イニシアチブ法への資金提供を承認する。
●『Development Finance Corporation』(国際開発金融公社)の最大債務を600億ドルから1,000 億ドルに引き上げる。
●『Inter-American Development Bank』(米州開発銀行)の合衆国総務に、略奪的な二国間融資に対抗するため、10回目の一般増資に賛成票を投じる権限を与える。
●中国政府の影響力に対抗するために、同盟国や世界中の他の国々との関係を強化し、強化することをサポートする。
●国務省に、香港の民主主義を促進するための1,000万ドルを承認する。
●強制労働、強制中絶、不妊手術、ウイグル人やその他のイスラム教徒の少数派に対するその他の人権侵害について、中国に制裁を課す。
●国連の合衆国代表に、深刻な人権侵害を犯した国々が人権理事会に参加することに反対し、他の関連する改革を推進するよう指示する。
●2022 年北京冬季オリンピックの外交的ボイコットを提唱する。
●中国当局間の汚職に関する報告が必要である。
●「グローバルマグニツキー人権法の廃止」を撤回する。
●国、商務省、合衆国通商代表部、国家情報長官は、知的財産の窃盗や強制的な技術移転の恩恵を受けた中国の国有企業を特定する必要がある。
●中国政府が中国企業に提供する補助金に関する報告が必要である。
●合衆国は、債務救済を取り巻く問題、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって最も経済的な影響を受けている国々について、国際金融機関と連携することを要求する。
●合衆国の国家安全保障や深刻な人権侵害に貢献した中国企業の合衆国資本市場における存在感を見直す必要がある。
●国務長官に、他国による強制的な経済措置の脅威または使用に直面している国を支援するための、経済防衛対応チームを配備する権限を与える。
●ロシアと中国を戦略的軍備管理に関与させるための戦略を策定することを合衆国政府に要求する。
●中国の核兵器とそれに関連する能力の拡大を強調し、合衆国が中国との軍備管理交渉を進める一方で、米国の拡大核抑止力を維持し、適切な防衛能力を追求するために同盟国やパートナーと協力することを提唱する。
こうして列挙されている項目は全て中国に正面切って対抗するものばかりです。
ちなみに民主党側の説明では、「Division C – Strategic Competition Act of 2021」は以下のようになっています。
●合衆国の戦略的重点をインド太平洋に置き、同盟、パートナーシップ、米国のグローバル・リーダーシップを優先させる。
●合衆国の同盟とパートナーシップを強化し、問題を解決する地域協力を支援することを中心としたインド太平洋戦略を推進する。
●インド太平洋の同盟国およびパートナー国との技術、防衛、インフラに関する協力を拡大し、同盟国およびパートナー国への安全保障支援を強化し、中国の軍事力が増大する中で協力関係を強化する。
●国際機関やその他の多国間フォーラムにおける合衆国のリーダーシップを促進し、それらの機関における中国および中国共産党の悪意ある影響力に対抗することを含む。
●中国の悪質な政治的影響力と略奪的な経済慣行に立ち向かい、合衆国の外交・経済的な国家運営を活性化する。
●対米外国投資委員会(CFIUS)に、大学への特定の外国からの贈与や契約の審査を義務付けることで、中国や中国共産党の影響力キャンペーンに対抗する。
●『米州開発銀行』(Inter-American Development Bank)の合衆国総務に、第10回一般増資に賛成票を投じる権限を与えることで、西半球における中国の略奪的なソブリン・ローンに対抗する。
●中国の知的財産権の盗用と補助金に対処し、外国の汚職行為への対策を行っている国への技術支援を優先する。
●『国際開発金融公社』(Development Finance Corporation)の最大責任額を1,000億ドルに引き上げ、サプライチェーンのセキュリティー、インフラ開発、デジタル接続とサイバーセキュリティーのパートナーシップに投資することで、米国の経済的な国家運営を強化する。
●新疆ウイグル自治区における強制労働、強制妊娠中絶、不妊手術、その他の虐待に対する制裁措置、香港、チベット、中国の市民社会に寄り添うための措置など、幅広い人権および市民社会に関する措置を承認する。
●国際的な合意や取り決めに関連して、議会やアメリカ国民に対する透明性を高めるための重要な条項を含む。
※台湾と結んだ「6つの保証」については以下の記事を参照してください。
「Division D」は「Meeting the China Challenge Act of 2021」(中国の挑戦へへの対処法)で、
中国政府、人民、または政府が所有または管理する団体による悪意のある行為と戦うために、大統領が既存の全ての権限を利用して制裁を課すことを推奨する。
などの内容です。
あくまでもざっくりとした紹介になりますが、「イノベーションおよび競争法」はこのような中身です。法律の目的は中国を打倒すること――それに尽きます。
項目の修正・削除などが行われますので、法律となったときにどのような内容になるのかはまだ分かりませんが、いずれにせよ合衆国は超党派で、総力を上げて中国を引きずり下ろしにかかっています。
⇒参照・引用元:『上院共和党政策委員会』公式サイト「S.1260 – 米国イノベーションおよび競争法」(2021年05月19日)
⇒参照・引用元:『上院民主党』公式サイト「米国イノベーションおよび競争法のセクションごとの概要」(2021年05月18日)
(吉田ハンチング@dcp)