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韓国政府は対中国で勝ち目なしと判断。「尿素」問題で中国を提訴せず

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中国尿素の輸出量を絞ったことによって、韓国では物流が止まる可能性があると大問題になりました。この混乱は現在も続いています。

中国からの通達は10月11日に出ていた

中国の尿素の輸出量が減少したのは、そもそも石炭不足(それに伴う価格急騰)に端を発するわけですが、表向きの理由は「輸出前の検疫を義務付けた」からです。

今回の韓国の尿素枯渇に至るタイムラインは以下のようになります。

尿素の輸出制限タイムライン
2021年10月11日
中国関税が尿素の輸出前検査義務化を通知

10月15日
尿素の輸出前検査義務化が施行

10月21日
韓国上海総領事館から『KOTRA』を通じて産業通商資源部に尿素問題を提起

11月02日
韓国政府で関連省庁の尿素問題の会議初開催

11月04日
大統領府NSC常任委員が尿素問題を討議

『KOTRA』は「大韓貿易投資振興公社」

この後、11月11日、オーストラリアから尿素水2万7,000リットルが到着しますが、量が少なすぎて焼け石に水です。

上掲のとおり、10月21日には『KOTRA』から尿素問題について政府産業通商資源部に報告が上がっていたのですが、政府が対策会議を開催したのは11月02日。

政府関係省庁が雁首をそろえて相談するまで10日余りの時間を浪費しました。この対応の遅さは韓国民からも批判されています。

韓国は中国を「GATT11条違犯」で『WTO』に提訴しないのか?

今回の尿素枯渇のすったもんだは、そもそも97%を依存していた中国が輸出を絞ったことにあります。韓国としてはこの輸出制限に対して文句の一つもいいたいところでしょう。

また、この輸出制限措置を撤回してもらわなければ(あるいは必要量を中国以外の国から調達できなければ)、韓国内の尿素水不足は解消されません。

では、中国の輸出制限を撤回させるべく『WTO』(World Trade Organizationの略:世界貿易機関)提訴という手はどうでしょうか?

GATT(General Agreement on Tariffs and Tradeの略:関税および貿易に関する一般協定)によれば、「関税・租税・課徴金以外のいかなる輸出禁止や制限を設定・維持してはならない」となっています(第11条)。

実際に2010年、中国が日本に対してレアアースの輸出禁止を行った際(あの日本・巡視船と中国・漁船との衝突事件が原因でした)には、日本は「GATT11条違犯」という建て付けで『WTO』に提訴しました。

今回の韓国に対する中国の輸出制限措置は、同様に11条に抵触する措置と捉えることが可能です。

しかし……です。

韓国政府は提訴しても「勝ち目なし」と判断

「中国が税関で止めていた尿素を迅速に輸出するように交渉中」とのことで、その結果を待っているのかもしれませんが、韓国の必要量を中国以外から全数調達するのは不可能です。やってやれないことはないかもしれませんが、サプライチェーンの全とっかえですから、供給量が安定するまで数年を要するでしょう。

今回の問題の原点である中国の態度を変えるしか根本解決はあり得ません。

しかし、韓国政府は中国に対して静観しています。

もっとも、韓国政府も考えなかったわけではないようで、韓国メディアに「産業通商資源部、外交部が相談を行った上で『WTO』提訴を見送った」旨の記事が出ています。

以下に記事の一部を引用します。

(前略)
しかし産業通商資源部は、中国を『WTO』に提訴することに実益もなく、法的な勝訴の可能性も低いと主張した。

特に、中国海管総書(税関)は止められた物量を解放し始めており、中国政府と協議が進んでいる状況で、法的問題に取り上げるのは事態解決にむしろ悪影響を及ぼす可能性があると見た。

産業通商資源部は、勝訴の可能性が低いという根拠に例外条項(GATT11条2項)を挙げた。

当該条項は、輸出締約国に必須商品の国内での重大な不足を防止・緩和するために一時的に輸出禁止・制限することを許容する内容を含んでいる。

中国は最近、石炭輸入の支障で発電量が減り、国内肥料用の尿素生産量が不足して今回の措置を下したという立場を取っている。
(後略)

確かにGATT11条には、「輸出国内でその商品が不足する事態になった場合には、例外として輸出禁止、制限を行ってもよい」としています。

中国は「石炭不足で自国分が足りなくなったので、尿素輸出を制限した。特に韓国を狙って行ったわけではない」と理由を述べているので、これを崩すのは容易ではありません。

実際、中国では石炭不足のせいで電力不足に陥ったのですから、『WTO』もその事実を「やむなく尿素を輸出禁止にした」傍証として扱うでしょう。

韓国の産業通商資源部が「訴えても勝ち目は薄い」と判断したのもうなずけはします。しかし、「中国を怒らせたくない」という心理が働いたのも確かなのではないでしょうか。

(吉田ハンチング@dcp)

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