アメリカ合衆国のペロシ下院議長が訪台した件が尾を引いています。
「弾・燃料代がもったいない」だけの中国のヒステリー演習もようやく一段落した模様ですが――韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領がペロシ下院議長と面会しなかった件は、中国共産党を大変喜ばせたようです。
「アメリカ合衆国を冷遇してみせたぞ、あの韓国が」というわけです。
ペロシ下院議長の訪台によってメンツが丸つぶれになった中国にとっては一服の清涼剤となった模様。
2022年08月08日、朴振(パク・ジン)外交部長官の訪中に合わせ、中国共産党の英語版御用新聞『Global Times』は、「South Korea naturally wins respect when it adheres to independent diplomacy: Global Times editorial」というタイトルの記事を出しています。
「独立外交を堅持すれば、韓国は当然のことながら尊敬を得る」ですが、ペロシ下院議長と会わなかったことを「独立外交」と評価しています。
中国ともめるのは合理的ではない!
『Global Times』の記事から一部を以下に引用します。
(前略)
台湾島訪問後のペロシ訪韓の際、尹氏と朴氏が会わなかったことに多くの人が気付いている。また、韓国側はペロシと台湾問題を議論することを意図的に避けていた。
このような取り決めについては、韓国にはその特殊な地理的位置に対する配慮があり、単純に見ることはできない。
しかし、中国社会は一般に、韓国の自主的な外交と中国に対する合理性を、特に日本との鋭い対比の中で示したものとみなしている。
その結果、韓国は中国社会から認知され、尊敬されるようになった。
このことは、朴氏の訪中に対して、ある程度、建設的で前向きな雰囲気を作り出している。
しかし明らかに、一部の国は中韓関係が健全で安定した発展の勢いを維持することを望んでいない。
中国と韓国が互いに歩み寄ろうとするとき、不吉な質問や挑発を交えて冷水を浴びせることが多い。
今回もそうだ。
韓国の保守的な世論を含む米国と西側の主要メディアは、中韓関係の否定的な側面を強調、増幅し、相違や矛盾、さらには対立を生み出すことに慣れている。
幾つかの現実は実に憂慮すべきものである。
(後略)
ペロシ下院議長と会わなかったのは、韓国の地政学的な宿命から、つまりは中国の顔色を窺わなければならないからだろう――と見透かしていますが、それでも「韓国の自主的な外交と中国に対する合理性を示した」と褒めています。
中国と揉めるのは合理的はないと表明しているのです。いい気なものです。
「日本よりエラいぞ」と韓国を評価した
傑作なのは「特に日本と比較して」の部分です。
「韓国と比べて日本はなんだ」と日本を貶める意味もありますが、「日本と比較して韓国はよくやった」と褒めることで韓国の優越感をくすぐっています。うまい言い回しです。
合衆国や国内保守派からの信頼を失った尹錫悦(ユン・ソギョル)政権ですが、記事にも書かれているとおり、中国側は「朴氏の訪中に対して、ある程度、建設的で前向きな雰囲気を作り出した」と評価しています。
「ある程度」がミソで、中国共産党は、「合衆国を冷遇した」という評判を取った韓国政府の頭を「よくやった」と撫でてみせただけです。
ここに、その程度では「三不の誓い」問題がどうにかなるとは思うなよ、という中国の脅しが入っています。
記事は以下のように続くのです。
THAAD配備問題は、中韓関係において避けることのできない大きな隠れた危険だ。
私たちは、韓国が自国の安全保障を維持するために必要な措置を講じることに反対しているわけではないが、韓国の友好的な隣国である中国の安全保障上の利益を損なう措置を講じることはできない。
THAADは、ワシントンが北東アジアに押し込もうとしているくさびであり、この地域を混乱させ、紛争から利益を得ることができるようにするためだ。
韓国政府が、中国の戦略的利益を尊重することを「中国に屈する」と解釈しないことを望む。
それどころか、ワシントンの圧力の下でTHAADを配備することで、まさに「米国の利益に屈している」と見なすべきだ。
中国は韓国に「友達」を作る方法を教えたことはないが、韓国は「友達」から手渡されたナイフを決して受け入れてはならない。
(後略)
この記事では懐柔調で韓国に「三不の誓い」を守れ、と諭しています。
THAADを追加配備したら「中国に屈した」というけど、それは「合衆国に屈した」ことじゃないのか――はなかなかいい説得です。本質はまさにそうで「どちらに屈した方がマシか」が問われているのです。
さて、朴振(パク・ジン)外交部長官と王毅外相の会談の結果、何が出るのかに要注目です。
(吉田ハンチング@dcp)