2024年03月15日、『中国証券監督管理委員会』が「上場会社の監督強化に関する意見」という文書を公表しました(他にも3つの文書を同日発表しています)。これが大変に面白い内容です。
冒頭で結論を述べれば、外国人投資家をだますための「釣書」です。
長くなってしまいますので、「これからは業績を粉飾しやがったら厳罰だ」の前までの部分を以下に和訳してご紹介します。
上場会社の監督強化に関する意見(試行)
中国証券監督管理委員会(証監会)は、証券監督管理委員会内の機関、取引所、下部組織、協会、部門、局に通達した:
2020年10月、国務院は「上場会社の質をさらに向上させる意見」(国発[2020]第14号)を発表し、上場会社は引き続き上場会社の構造を最適化し、革新能力が高まり、収益能力が着実に向上し、全体的な見通しが大幅に改善された。
しかし、上場会社の金融詐欺、上場会社の利益を侵害する大株主などの違反は依然として時折発生し、投資家の信頼の違法な減少が深刻な影響を受け、配当の安定性、適時性、予測可能性が相対的に不十分であり、上場会社は自社の投資価値を十分に重視しておらず、上場会社の品質と高品質の要件と投資家の期待に比べて経済的、社会的発展のギャップがまだ存在する。
上場会社の質と投資価値をさらに高めるため、本意見を述べる。
一、一般的な要求
新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想に導かれ、第20回中国共産党全国代表大会と中央金融工作会議の精神を深く実践し、上場企業の質を強力に向上させるという目標を緊密に重視し、強力な監督、リスクの予防、質の高い発展の促進という目標を堅持し、より厳格な監督によって上場企業の質の高い発展と投資価値の向上を促進し、中国の特色ある資本市場の建設と金融強国の建設を加速させ、経済社会の質の高い発展に新たに貢献する。 質の高い経済社会の発展に新たに貢献する。–投資家の利益をより重視する。
投資家の懸念にタイムリーに対応し、投資家の利得感を高めることは、規制ルールの策定、規制措置の実施、市場文化の育成のプロセスを通じて実施される。–国情と市場環境を遵守する。
資本市場の一般法に従い、中国の実情に基づき、上場会社のガバナンスの特徴を的確に把握し、上場会社および支配株主、実質的支配者、取締役及び執行役の責任を強化するとともに、上場会社に対する規制制度を改善する。–包括的かつ厳格な監督を行う。
監督の主な責任と主な業務を遂行し、「棘のある長い歯」と「角のある歯」を確保し、監督の実効性を効果的に向上させ、金融詐欺、上場会社の利益の横領、違法な持株比率の引き下げ、「疑似市場価値経営」などの犯罪を取り締まり、できるだけ早期にリスクを特定し、警告し、摘発し、処分する。リスクの早期発見、早期警戒、早期摘発、早期処理
–システマチックに規範を堅持する。
総合的な対策を重視し、症状と根本原因の両方に対処し、情報開示とコーポレート・ガバナンスの「車の両輪」を堅持する。企業の自主性の原則を尊重し、規制制約を強化し、大株主の権利と中小投資家の利益保護に配慮し、ルール整備、監督強化、発展促進という複数の措置を堅持し、市場の良好な生態系の育成に努める。情報開示監督の強化と業績偽装の厳罰化
(後略)
中国当局も「いい加減な上場案件が多すぎる」と認めたからこそ、このような文書を出す羽目になっているのです。
「上場会社の金融詐欺、上場会社の利益を侵害する大株主などの違反は依然として時折発生し」と書いていますが、さあ果たして「時折」でしょうか。
そもそも中国企業の株式上場は非常に恣意的、また中身が怪しいものです。一時アメリカ合衆国市場に上場して合衆国からの資金流入を狙うという動きが大きくなりましたが、トランプ政権時に米中対立が深化し、上場した中国企業に合衆国同様の監査を課す――としたとたんに、市場から潮が引くように退場することになりました。
この事実は、中国企業がいかにいい加減な内実であるのかを示しています。
「合衆国市場なんかなくても香港市場と本土市場があるもんね」だったのですが、そのいい加減な上場と「フタを開けたら業績は惨状」が明らかなので、当局は、今になってこんな文書を出すのです。
「情報開示監督の強化と業績偽装の厳罰化」を打ち出していますが、こんなもので果たして中国企業の業績についての透明性が高まるでしょうか。
答えは「NO」です。
なぜなら、中国では民間企業ではなく、国有企業がさらに幅を利かせる状況になっています。つまり、バックには有力な政治家、政府がいます。中国共産党の恥になるような業績を公表する――などということは考えられません。
自分たちに都合のよい業績を公表するでしょう。政府の統計を偽装するような国が企業の業績を偽装しないわけがないのです。こんな文書を見て、「政府は努力している」ので中国企業にお金を投資しよう――などと考える投資家がいるなら、それはただのお人好しです。
ご注目いただきたいのは、日付です。この文書を『中国証券監督管理委員会』が出したのは03月15日。先にご紹介した『恒大集団』を締め上げる公告を出したのは18日。
「これからは業績を粉飾しやがったら厳罰だ」という文書を出した後に、『恒大集団』を締める公告が出ていますね。これが、中国共産党政府が『恒大集団』を見せしめに使った――と考える理由です。
(吉田ハンチング@dcp)