2024年11月22日、中国の国家金融監督管理総局が「2024年第3四半期 銀行業・保険業の主要監督指標データ状況」を公表しました。
一応全文を和訳してご紹介しますが、面倒くさい方は(大本営発表でもあるので)次の中見出しまで飛ばしてください。
↑Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください/スクリーンショット1. 銀行業・保険業の総資産が引き続き増加
銀行業
2024年第3四半期末における中国の銀行業金融機関の本外貨資産総額は439.5兆元で、前年同期比7.3%増加。大型商業銀行の本外貨資産総額は189.3兆元で、前年同期比9.2%増加(全体の43.1%を占める)。
株式制商業銀行の本外貨資産総額は72.8兆元で、前年同期比4.5%増加(全体の16.6%を占める)。保険業
2024年第3四半期末における保険会社および保険資産管理会社の総資産は35兆元で、年初比3.5兆元増加(11.2%増加)。財産保険会社:2.97兆元(年初比7.5%増加)。
人身保険会社:30.6兆元(年初比11.7%増加)。
再保険会社:8,231億元(年初比10.2%増加)。
保険資産管理会社:1,245億元(年初比18.3%増加)。2. 銀行業・保険業の金融サービスが持続的に強化
銀行業の融資
2024年第3四半期末時点で、銀行業金融機関による小規模企業向けの貸付残高は79.8兆元で、このうち1件あたりの貸付額が1,000万元以下の普恵型小規模企業向け貸付残高は32.6兆元(前年同期比14.7%増加)。保険業
2024年1~9月の保険会社の元保険料収入は4.79兆元(前年同期比7.2%増加)。賠償金・給付支出は1.73兆元(前年同期比23.8%増加)。新規契約件数は784億件(前年同期比46%増加)。3. 商業銀行の信貸資産の質は全体的に安定
不良貸付
2024年第3四半期末、商業銀行の不良貸付残高は3.4兆元で、前期末比371億元増加。不良貸付比率は1.56%で、前期末とほぼ同水準。正常貸付
正常貸付残高は213.1兆元で、うち正常分類貸付は208.2兆元、注意分類貸付は4.9兆元。4. 商業銀行のリスク対応能力が全体的に十分
収益
2024年1~9月の商業銀行の累計純利益は1.9兆元(前年同期比0.5%増加)。平均自己資本利益率は8.77%で、前期末比0.14ポイント減少。平均総資産利益率は0.68%で、前期末比0.01ポイント減少。貸付損失準備
2024年第3四半期末、商業銀行の貸付損失準備残高は7.1兆元で、前期末比830億元増加。貸倒引当金比率:209.48%(前期末比0.16ポイント増加)。
貸付準備比率:3.27%(前期末とほぼ同水準)。
資本充足率
商業銀行(外国銀行支店を除く)の資本充足率は15.62%(前期末比0.08ポイント増加)。一級資本充足率:12.44%(前期末比0.05ポイント増加)。
コア一級資本充足率:10.86%(前期末比0.12ポイント増加)。5. 商業銀行の流動性指標は安定を維持
2024年第3四半期末、商業銀行の流動性関連指標は以下の通り:
流動性カバレッジ比率:153.29%(前期末比2.59ポイント増加)。
安定資金調達比率:127.43%(前期末比1.51ポイント増加)。
流動性比率:75.09%(前期末比2.72ポイント増加)。
人民元超過準備金率:2.08%(前期末比0.36ポイント増加)。
預貸比率(人民元国内基準):80.76%(前期末比0.17ポイント増加)。6. 保険業の支払い能力は十分
2024年第3四半期末における保険業の総合支払い能力充足率は197.4%、コア支払い能力充足率は135.1%。財産保険会社:総合充足率231.8%、コア充足率203.9%。
人身保険会社:総合充足率188.9%、コア充足率119.5%。
再保険会社:総合充足率262.7%、コア充足率230.1%。
このプレスリリースでは、中国の銀行業・保険業の健全性についてなんら心配する必要はない――といった体になっています。
「健全だよ」についてのツッコミ各種
確かに公表されたこのデータだけを見ると、中国の金融機関は健全性が高いように見えますが、このような公表データだけで中国の金融システム全体の健全性を評価するのは慎重にならざるを得ません。
次のような箇所に留意したいところです。以下に突っ込みを挙げます。
「公表データの信頼性」は大丈夫なのか?
中国の公的な統計データに対して透明性や正確性についての懸念がしばしば指摘されます。
特に、地方政府や企業の実際の債務問題が公表データにどの程度反映されているかは疑問です。
特に注目したいのは、「不良債権率(NPL比率)」です。
※「NPL」は「Non-Performing Loan」の略でパフォーマンスがないローンで「不良債権」です。
この資料によると「1.56%」と非常に低くなっており、「前期末とほぼ同水準」とプレスリリースは述べています。
「本当に?」という数字で、これが現実を反映しているかどうか怪しいところです。
中国の金融機関は、しばしば「延滞債務」を「正常債務」として再分類することで、不良債権を隠すことがある――とされるのです。
本当にこれを行っているなら隠蔽工作の一種であり、一見「健全」に見えても信用できないことになります。
債務拡大と流動性リスクは見過ごせない!
今回公表さらたデータによると、銀行業の総資産が前年比で7.3%増加しています。
これは一見すると健全な成長のように見えますが、逆に言えば「過剰な信用供与や債務の拡大の可能性」も示唆しています。
Money1でも何度もご紹介しているとおり、地方政府の隠れ債務(LGFV:地方融資平台)や企業の過剰債務が深刻な問題です。
これらの債務が金融機関の資産にどの程度含まれているかが全く不明なため(隠れ債務といわれるぐらいで「全くオミットしている可能性」アリ)、実際のリスクは過小評価されている可能性があります。
流動性指標の安定は本当か?
「流動性カバレッジ比率」※1や「安定資金調達比率」※2は健全に見えますが、これにも中央政府や『中国人民銀行』による強力な管理が及んでいます。
『中国人民銀行』が政策金利や預金準備率を調整することで、流動性をコントロールしています。これにより短期的な流動性危機は抑えられるかもしれませんが、根本的な債務構造の問題が解消されているわけではありません。
不動産市場の影響は測れない!
中国の不動産市場は金融システムに大きな影響を与える要因の一つです。中国経済は、不動産市場の発展に支えられてきましたが、近年、不動産企業の債務不履行問題が表面化し、依然として金融機関のリスクであり続けています。
商業銀行の資産には不動産関連のローンや債券が多く含まれています。不動産市場の下落が続けば、これが金融機関の健全性を悪化させる可能性がありますし、公表されたデータに不動産セクターの不良債権がどこまで反映されているか不明です。
――というわけで、中国当局は「健全だ」と連呼するようなデータを公表しているのですが、さあ果たして本当に大丈夫かしら?です。
銀行が30日間のストレス状況下で必要となる純キャッシュアウトフローを高品質な流動資産でカバーできる割合を指します。
つまり純キャッシュアウトが30日間続いたとしても、その貸し出し機関が「もつかどうか」を示します。
以下の計算式で求めます。
流動性カバレッジ比率(LCR) = 高品質流動資産 ÷ 30日間の純キャッシュアウトフロー × 100
金融機関が短期的な市場変動や資金流出に対応し、中長期的に健全性を維持する能力を測るためのものです。
以下の式で計算します。
安定資金調達比率 = 利用可能安定資金量 ÷ 必要な安定資金量 × 100
(吉田ハンチング@dcp)