2020年03月12日(木)、『中央日報(日本語版)』に「韓経:米ウォール街が先に主張…『韓国などと通貨スワップ必要』」という記事が出ました。
同記事内では、新型コロナウイルスによる株式の暴落、脆弱な通貨の価値下落など、現在起こっている金融市場の混乱を収めるために、FEDは積極的に新興国との通貨スワップ協定を結ぶべき――という話がアメリカ合衆国・ウォールストリートから出た、と書いています。
⇒参照:『中央日報(日本語版)』「韓経:米ウォール街が先に主張…『韓国などと通貨スワップ必要』」
https://japanese.joins.com/JArticle/263569?sectcode=300&servcode=300
誰がこのような話をしているのかですが、これの元ネタは以下のウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:略称WSJ)の社説記事です。
⇒参照・引用元:『The Wall Street Journal』「The Fed’s Market Emollients」
https://www.wsj.com/articles/the-feds-market-emollientsthe-feds-market-emollients-11583794286
タイトルは「The Fed’s Market Emollients」ですので、「連邦準備銀行(FED)※1の市場エモリエント」というもの。「emollient(エモリエント)」を辞書で引くと「(皮膚の)軟化剤」といった意味がでてきます。
「?」と思うでしょうが、女性ならご存じかもしれませんね。「エモリエント」というのは、肌に塗って表皮を柔らかくし、あぶら分で水分の蒸発を防ぐための、簡単にいえば「保湿剤(柔軟剤)」のことです。
WSJの記事の中では、世界的な金融危機を予防するために「お金の流動性を確保しなければならない」、そのためにニューヨーク連銀は夜間レポの貸付業務を強化などしているけれども、他にも多くのことをしなければならない。簡単に利用できる他国の中央銀行との「通貨スワップ協定」から始めてみるのはどうか、と提案しているのです。
But the Fed may have to do more,starting with extending foreign-exchange swap lines with other central banks.
の部分がそうです。
韓国メディアは自分たちに都合の良い引用をする癖(へき)がありますので、「韓国」の名前が記事内に挙がっているかどうかを疑う向きもありますが、今回は確かに韓国も挙げられています。
The Fed currently has swap arrangements with the central banks of Canada, U.K., European Union, Switzerland and Japan. It could extend these swap lines to other countries with markets in tumult like Australia, South Korea, China, Taiwan and Hong Kong. Foreign central banks should also be encouraged to supply dollars to their banks if needed.
連邦準備銀行は現在カナダ、イギリス、EU、スイス、日本の中央銀行と通貨スワップ協定を結んでいる。市場が騒々しいなら、このような通貨スワップ協定(原文では「スワップライン」としています)を拡大してみたらどうだろう。例えばオーストラリア、韓国、中国、台湾、香港といった他の国々と、だ。そうすれば、海外の中央銀行が必要とする自国の銀行にドルを供給する助けとなるだろう。
という文の中に出てきます。
「香港」「台湾」を「other countries」(他の国々)の例として挙げているだけで、まずナニなのですが(恐らくこの記事の筆者は中国を怒らせることも分かって書いているでしょう)、そもそも記事のタイトルで「保湿剤(柔軟剤)」と例えていることからも分かるとおり、「そういう手もあるかもよ」ぐらいの話です。
決して「韓国などと通貨スワップ必要」とは書いてありません。
後半では、より重要と思われる「債券の購入を復活するのはどうだ」と提案しているのです(時期尚早ではあるが、としています)。これもエモリエントの一つだと。
韓国メディアは、なんだか「外貨がもらえる」ぐらいの感じで通貨スワップ協定を取り上ることが多いですが、そういうものではないでしょう。まず、なぜ自国が合衆国と通貨スワップ協定を結んでもらえないのか※2を深く考えてみるべきです。
※1
FEDは「Federal Reserve System」の略で通常は「連邦準備制度」と訳しますが、ここでは「一国の中央銀行」としてのFEDですので、一応「連邦準備銀行」としました。ちなみに合衆国には連邦準備銀行が12あります。
※2
以下の記事のようにかつてウソをついていたから、というのも理由の一つでしょうね。
(柏ケミカル@dcp)