世界を股にかける投機筋のヘッジファンドは、たとえ一国の中央銀行が相手であっても「儲(もう)かる」と踏めば攻撃を仕掛けるのに躊躇(ちゅうちょ)しません。
イギリスの中央銀行「イングランド銀行」がジョージ・ソロスさんのヘッジファンドに屈服させられたのは特に有名ですが、1997年のアジア通貨危機でタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国が次々とドボンになったのは、ヘッジファンドの「通貨アタック」、猛烈な空売りのためです。
これらの国々は当時、固定相場制を取っており、それぞれの国の通貨が「割高」だと判断できたため通貨アタックを受けたのです。そのやり口は先の記事でご紹介しましたが、「通貨が割高」というなら、現在最も標的たり得るのは中国の「人民元」です。
中国は為替レートを自国の都合の良いように設定しており(毎日算出した基準値を発表し、その±2%以内の変更内に収めるように為替レートをコントロールしています)、いわば固定相場制のようなもので、しかも明らかに割高と推測できる局面です。
エコノミストの安達誠司先生は「中国はすでに小規模ながら通貨アタックを受けている可能性が高い」と述べていらっしゃいますが、事実は恐らくそのとおりでしょう。
しかし、中国の人民元に通貨アタックが仕掛けられているとすればもっと大ごとになっていてもよそさうなものです。なぜ顕著に表面化しないのでしょうか? 安達先生の言葉を引けば重要なポイントは「小規模ながら」という点です。
人民元の玉を大量に調達するのが難しい
人民元への大規模な通貨アタックが行われていない理由は、空売りを行いにくい通貨だという点にあるのではないでしょうか。
株式やFXの取引をされない方には理解しにくいかもしれませんが、「空売り」というのは、自分が売り物を持っていないのに「売れる」システムです。
なぜそんなことができるかというと、誰かに借りるからです。この借りるという行為には「その換わりに借り賃を支払うよ」という約束が付いてきます。逆にいえば、貸し賃をもらうことで貸してくれる「貸し手」がいなければ空売りはできません。
一般にはあまり知られていませんが、人民元は(中国がIMFに加入するときに約束したにも関わらず)取引の自由化が十分に行われていない通貨で、規制が厳しいのです。例えば、外国人が中国国外で人民元を保有することは禁じられています。一部預金は認められていますが上限が決まっています。
つまり玉(たま・ぎょく)を調達することが難しい通貨なのです。玉が調達できなければ空売りもままなりません。
玉を調達できる(貸し手がいる)とすれば、規制のない(少ないとされる)オフショア市場(香港・ロンドン)ということになります。また、小規模ながら通貨アタックが仕掛けられているなら、中国通貨当局を横目に見ながら空売りを行っていることになります。
大規模通貨アタックが現実のものになったら
現在は小規模と推測される通貨アタックが大規模になったとき、それこそ中国の外貨準備が枯渇するほどのものになったとき、中国は現在の(事実上の)固定相場制を放棄し、変動相場制を受け入れざるを得なくなるでしょう。
ドルは枯渇、人民元は大幅な安値となっているはずですし、当然株安も進行。通貨安で外貨建て債務の返済が困難になるため、企業のデフォルトが連続、政府だってお手上げです。
実は、中国をドボンに追い込むにはこのような手が最も確実かと思われるのですが、そうなって大笑いするのは誰でしょうか。もちろんアメリカ合衆国です。中国の覇権獲得能力を大幅に後退、喪失させることになるでしょうから。
そして、このような通貨アタックが実現でき、大儲けが可能なのも欧米のヘッジファンドなのです。
(柏ケミカル@dcp)