韓国のAmazonと呼ばれる通販大手『Coupang(クーパン)』は先日、火災によって京畿道利川市にある物流センターを失いました。鎮火まで2日かかる大火で、消防士が殉職されるという痛ましい事件でした。
『ゴールドマン』が3,000億回収に動く?
この件に絡んで、アメリカ合衆国の投資銀行『ゴールドマン・サックス』が『クーパン』に融資した資金を回収するのではないか、という観測が出ています。
なぜ、こんな話になるかというと――2017年に『ゴールドマン・サックス』は5年満期(2022年に満期)で3,000億ウォン(約294億円)の資金を『クーパン』に融資しました。『クーパン』の支払う利息はこれまで年利5.5%ほどとのこと。
ただ、この融資の担保が、先日火事になった「物流センターの土地と建物」だったのです。
「期限の利益」の喪失条項に該当するという話
「担保が全焼した」といった事態では、普通、契約書の「期限の利益喪失条項」が機能します。
「期限の利益」というのは、弁護士さん用語です。一般にはほとんど聞きませんね。
契約書には、例えば「○月△日までに債務を支払うこと」といった条項がありますが、この「○月△日までに債務を支払う」は、債務者(借金を返済しなければならない人)にとっては、「○月△日までは支払わなくてもいい」という意味ですね。
これを飲んでしまうと、債権者(お金を貸した人/お金を返してもらう人)は、○月△日までは支払わなくてもいいに同意したことになります。このような債務支払いの猶予・期限設定によって得られる債務者にとってのメリットを「期限の利益」というのです。
逆に、債権者は、もし仮に債務者に何かあったときにはいち早く借金を返済させるという条項を入れ、備えます。これが「期限の利益喪失の条項」です。
例えば、「以下のような場合には、乙は期限の利益を失い、直ちに債務を弁済すること」と書き、その下に「①乙が倒産した場合、②……、などと条件を並べていけばいいわけです。
こうしておくと、債務者にお金がなくなる(すわ回収し損なうかも)といった事態になったときに債権者はいち早く資金回収に動くことができます。
――で、『クーパン』の話に戻ります。
『ゴールドマン・サックス』の融資の担保が全焼してしまったわけですから、これは普通なら「期限の利益喪失事項」に該当するので、『クーパン』への融資を引き上げることが可能だろう、というわけです。
実際、韓国メディア『毎日経済』によると、債権者『ゴールドマン・サックス』は債務者『クーパン』に対して「期限の利益喪失条項」が有効かどうかを確認しているとのこと。
火事の損失については保険が下りるでしょうが、ここで現金を抜かれるのは『クーパン』にとっては困ったことでしょう(そもそも赤字の会社ですし、この融資の満期は2022年だったのですから)。
恐らく『クーパン』はどこかから新たに資金を借りないといけなくなると思われます。ただ、金利は5.5%よりは安く済むのではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)