Money1で連日ご紹介しているとおり、韓国のウォンが対ドルで安値更新となっています。すでに「1ドル=1,350ウォン」を突破しており、過去の例からいえば、もはや完全に通貨危機水準です。
そのため、韓国の識者、メディアからは「なんとかしないと……」という記事が出ています。『NEWSIS』の「為替レートを守る必要があります」というタイトルの記事から一部を以下に引用してみます。
(前略)
問題は危機時に「実弾」の役割をする外国為替保有額が減っているという点だ。外国為替保有額は去る03~06月の4カ月で234億9,000万ドル減少した。07月に入って少し戻したが、経済の安全弁の役割を果たす外国為替保有額の減少に懸念が高まっている。
彼(キム・ジョンシク『延世大学』経済学部教授:筆者注)は、
「現水準の口頭介入は全く効果がなく、トレンドを変えられるものではない。
過度な変動性を防ぐためにドル売りによる微調整(スムージングオペレーション)は必要だと見ているが、そうすると外国為替保有高(外貨準備高のこと:筆者注)は減るしかない」とした。
また「外国為替保有額が減ると、他の国々に韓国が外国為替危機に陥ったという誤った認識を与えることとなり、外国為替危機が再び発生する危険も排除できない」と警告した。
(後略)⇒参照・引用元:『NEWSIS』「為替レートを守る必要があります」
為替レートを守るめには――「ウォン高方向」へ戻すためには――ドル売りウォン買いを行わなければなりません。しかし、これを行うと外貨準備のドルが溶けます(ウォンに換わります)。
恐らく通貨当局はウォン安阻止のために為替介入を行っていますが、これでかなりのドルを喪失したはずです。
記事内にあるとおり、韓国の外貨準備高は以下のように減少しております。
⇒データ出典:『韓国銀行』公式サイト(現時点では2022年07月までしか公表されていません)
確かにドルを溶かせばウォン高に誘導することはできますが、しかし韓国の通貨当局が投入できる金額などしれています。市場の奔流を止めることなどできません。
この記事で興味深いのは「為替レートを守る必要があります」というタイトルながら、なんら解決策、すなわち「どうやって?」の部分が全くないことです。
止める方法はないのです。
今回のウォン安は「面白い」
ウォン安はすでに過去の危機水準まで達しているものの、韓国は経済危機突入とはなっていません。
このレベルでまだ通貨危機(あるいは経済危機)でないのは、深刻な資本流出が起こっていないからです。また、ドル不足は少なくとも表面化しておりません。
過去2回のドボン騒動、すなわち1997年のアジア通貨危機、2008~2009年の韓国通貨危機時には、韓国から過度の資金流出が起こり、ドル不足に陥りました。
投資家が急速に資金を引き上げたため、ウォン売りドル買いが起こり、これがウォン安を急進させました。ドルの枯渇でどうにもならなくなったとき、韓国政府はバンザイして『IMF』(1997年)、「通貨スワップ」(2008年)に助けを求めたのです。
ドル枯渇で二進も三進もいかなくなり、外部からの支援で切り抜けることを「韓国におけるドボン」と定義するなら、2020年03月もそうだったことになります。
2008~2009年:韓国通貨危機 ⇒ ドル流動性スワップ
2020年:コロナ危機 ⇒ ドル流動性スワップ
です。
『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)が提供してくれた、緊急の600億ドル規模「ドル流動性スワップ」(韓国側呼称は「通貨スワップ」)で助かったのですから。
もう2年前の話になってしまいますが、韓国は当時証券会社が海外からマージンコール(追証)を突きつけられて大変な事態になっていたのです(すなわちドル建てで追証がかかっていた)。
今回の通貨安が面白いのは、これまでのように「韓国経済は危ういのではないか?」という認識に端を発する資金流出――これによるウォン安急進ではないことです。
そのため、『韓国銀行』李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁から「ウォンだけ安くなってるわけじゃないから大丈夫」といった発言が出てくるわけです。
根本原因は、アメリカ合衆国がコロナ禍でじゃぶじゃぶに行った金融緩和をやめて、引き締め方向に舵を切ったことです。
為替レートというのは、基本的に通貨量の比で決まりますので、ドルの量が絞られれば当然他の通貨の価値は相対的に下がります。韓国と合衆国の金利差がこれを加速させます。
お金は「より増える」ところに集まるからです。
そのため、合衆国の金融引き締め、米韓の金利差拡大が止まらない限りは、ウォン安進行は止まらないと考えられます。
これから資金流出が始まるかもしれない
面白いというのは、「韓国のファンダメンタルズは堅牢」などという認識があるにも関わらずウォン安がかつてのドボン騒動水準まで進んでいるという点です。
これは、とりもなおさず、韓国が日本・合衆国に求める「通貨スワップ」があってもウォン安が止められないだろう、ことを示しています。
これまでのドボン騒動は、
①韓国経済は危ないと認識される
②韓国からの資金流出
③ウォン安が急進
というステップでした。この過程で外国からの「新規融資の停止」「ロールオーバーの拒否」が起こって白旗を掲げたのです。
「通貨スワップ」が威力を発揮したのは、①に効いたからです。
『IMF』が、あるいは合衆国が、日本がケツを持つのなら大丈夫だろうと、外国からの信認が回復して、②③が止まったのです。
しかし、今回のウォン安はまるで様相が違います。
少なくとも、信用格付機関は韓国の格付けを下げたりしていません。いまだに「堅牢」としています。
つまり、「通貨スワップ」があろうがなかろうが進行するウォン安なのです。
考えてもみてください。合衆国連銀と無期限無制限のドル流動性スワップ(韓国側呼称「通貨スワップ」)を締結している国・地域のハードカレンシーはドルに対して高いでしょうか?
そのため、今回のウォン安について「日米との通貨スワップがあれば止められる」と考えるのはそもそもおかしいといえるのです(ないよりはマシでしょうが)。
その意味では、『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が、メディアが書き立てる「通貨スワップがいる!」に対して、「フン」という冷笑的な態度を示しているのは理にかなっています。
恐らく李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「あっても変わんねーよ」と分かっているのです。
問題は、「韓国経済は危ういのではないか?」という認識に端を発する資金流出がこれから起こるかもしれない――という点です。
自分ではほとんどどうにもできないウォン安が進行し、これによって経済が傾き、外国人投資家が「あ、韓国はアカンね」と認識したとき、本当の意味での資金流出が起こる可能性があります。
そのときこそ「ドル流動性スワップ」が真に必要です。
(吉田ハンチング@dcp)