韓国メディア『ヘラルド経済』が興味深い記事を出しています。「事故・危機が絶えない金融市場…消えた『礼儀作法』」というタイトルなのですが、以下に一部を引用してみます。
(前略)
誤った道に従う(從枉)経済危機はほとんど金融危機の形で現れる。金融関連の事故は経済的な波及効果が大きい。
このため、他の分野とは異なり、金融は金融委員会と金融監督院にかなりの権限を持たせるように法的に許容している。
施行令と行政規則だけで金融会社と金融人に致命的な影響力を行使することができる。権限が多く強い分、予防的規制に対する責任も大きい。
しかし、最近の資本市場が直面している問題に対して、金融当局の予防的規制は適切に行われたと見るのは難しい。
低金利と不動産ブームに乗じて証券会社が不動産PF(プロジェクトファイナンス)に貪欲に飛びつく状況を放置した。
劣後債中心の海外不動産投資ブームにもブレーキをかけられなかった。
公募価格を膨らませて投資家を欺く企業公開(IPO)も事実上放置してきた。
不動産PFと海外不動産投資、公募価格の高騰で一部の関係者は大金を稼いだが、その後の破綻の負担は多数の投資家が背負うことになった。
金融当局は業界の誤った行動を止められなかっただけでなく、自らも間違った道を歩んできた。
通常、銀行に対する監督権限は独立性が認められている中央銀行が持つが、韓国では政府組織である金融委員会にある。
外国為替危機を克服するために銀行・証券・保険監督を金融監督委員会(現在の金融委員会)に統合したからだ。
外国為替危機(リーマンショックのこと:引用者注)克服後、韓国の国内総生産(GDP)に対する家計負債は主要国の中で1位になった。
自他ともに認める韓国経済のアキレス腱だ。
家計負債を減らさなければならないという警告が相次いでいる。
政府が金融委員会を通じて銀行にお金をばらまいた結果が、今日の家計負債問題をもたらしたと言えるのではないだろうか。
当記事では、金融当局の規制が甘かったから家計負債が増えて「時限爆弾」になったのではないだろうか?などと書いていますが、これは政府(金融当局)に責任を押し付けるものに見えます。
「今さらそんなこと言ってもさあ……」です。確かに責任がないわけではありませんが、金融当局のせいにするのは全くいただけません。
いささかMMT的な言説になりますが、お金には「出どころ」と「行き先」があります。
同記事で批判されている不動産PFにしても、これはお金の調達スキームの一つに過ぎず、仕組みを作った銀行や証券会社だけが悪いのではありません。それを引き受けて出資した投資家がいます。投資家(この中には地方政府などを含みます)が出したお金は、マンションなど実際の不動産になって、それを国民が購入するわけです。
「不動産ずっと右肩上がり神話」を支えてきたのは国民であって、不動産企業や金融機関はみんなが臨むように資金を流していただけです。国富の80~90%が不動産であるという国が出来上がったのは、政府(金融当局)のせいではなく、韓国民みんなで支えたお祭りのようなものだったからです。
不動産価格はずっと上がり続けるという神話を信じて、国民みんなで乗っかったおかげで、資金はとにかく不動産に流れ、これがまた不動産価格を押し上げるという構造を造り上げました。不動産PF自体も祭りを支えるためのスキームであって、みんなが望むから銀行や証券会社が整えただけです。
国富のほとんどが不動産であるという構造が出来上がってしまったので、今さら後に引けません。すでに不動産価格の調整(バブルの崩壊といってもいいです)が起こると、国富のほとんどが吹き飛ぶという構図になっています。
『韓国銀行』や企画財政部、金融委員会、金融監督院など、韓国の金融当局が薄氷を踏む思いで、不動産市場をコントロールしようとしているのはそのためです。
ですから、上掲記事のような「政府が金融委員会を通じて銀行にお金をばらまいた結果が、今日の家計負債問題をもたらしたと言える」というような言説は「他人のせいにする」話であって、全く賛成できません。
不動産市場にお金が流れるように望んだのは国民ですし、住宅ローンなどを利用して不動産市場にお金を突っ込んだのも国民です。それが金融当局のせいなのでしょうか。
韓国の家計負債は時限爆弾といわれます。
これは今に始まったことではありません。1990年代に池東旭先生の著作などで、すでに「韓国の家計負債は大丈夫なのか」といわれていました。もっともその後に『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)危機が到来して、国家自体が(事実上)破綻しました。
もうアカンといわれながらここまで来ました。この先もいけるかどうかは、それこそ韓国民次第です。
金融当局は「仮にハードクラッシュが起こっても被害を最小限にする」ことが望まれます。
(吉田ハンチング@dcp)