韓国「外貨建て債券市場」に痛恨の一撃! 「5億ドル早期償還が不可能」で信用が墜落するぞ

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韓国レゴランドのABCP(Asset-Backed Commercial Paper:資産担保コマーシャルペーパー)が不渡りとなったことに端を発して、韓国の短期資金調達市場で金利が急騰。

資金調達が非常に困難になるという人災が発生しています。

2022年11月02日、『興国生命』が「外貨建て永久債」の早期償還を行わないことが分かりました。これが、外貨建て債券市場を梗塞状態に陥れるのではないか――という懸念が出てきました。

まず、本件を報じた韓国メディア『韓国経済』の記事から冒頭部分を以下に引用します。

(前略)
『興国生命』が外貨建て新種資本証券(永久債)の早期償還権(コールオプション)を行使しないことにし、これが大乱を招くのではないかという懸念が大きくなっている。

国内企業発行の外貨建て債券に対する投資家の信頼が崩壊する可能性があるからだ。

江原道レゴランド事態で国内債券市場が凍結したのに続き、外貨建て債券の発行まで萎縮すると、企業が流動性を確保する道が完全に詰まる可能性があるという警告が出ている。

⇒参照・引用元:『韓国経済』「5億ドル永久債早期償還不発…今回は興国生命発『外貨債危機』」

何が起こったのかというと――。

2022年11月01日、『興国生命』が2017年に発行した「5億ドルの永久債」の早期償還(09日が期限)を見送ることを発表したのです。

同記事によれば、

(前略)
国内企業が発行した資本性証券(永久債・劣後債)が早期償還しないのは、2009年『ウリィ銀行』の外貨建て劣後債以来初めてだ。
(後略)

⇒参照・引用元:『韓国経済』「5億ドル永久債早期償還不発…今回は興国生命発『外貨債危機』」

とのこと。同記事の書きようから分かるかもしれませんが、劣後債を早期償還しないなんて話は普通起こらないことなのです。

これがいかに深刻なことなのかを分かっていただくために、まず永久債とはどのようなものなのかをご紹介します。

永久債についてご存じの方は以下の小見出しのブロックを飛ばしてください。

永久債ってナニ?

できるだけ簡単にやっつけます。

「永久債」というのは、特殊な債券で償還期限がありません。発行体が存続する限り、利払いが受けられるというものですが、元本は返ってきません。

例えば、1億ウォン投資して年利5%だとすると、年に利払いが500万ウォンずつ、ずーっともらえますよ、という債券です。その代わり元本は返ってこないのです。

その性格上、永久債は他の債券よりも利率は高くなっています。

また、普通は永久債には「早期償還」というコールオプションが付いています。

発行体が途中で「償還」することができるのです。この場合は、投資家に元本が返ってきます。

ところが、発行体が早期償還を行わないことがあります。これを「コールスキップ」といいます。

コールスキップを行うと、これは発行体のダメージになるのです。なぜかというと、投資家は発行体がコールすることを前提にお金を突っ込むからです。

考えてもみてください。500万ウォンずつずーっともらえますよ、といわれても元本が返ってきませんから、元本分戻ってくるのは20年後です。また、発行体からしても、ずーっと他の債券よりも高い利率で利子を支払い続けるのは大変です。

ですので、普通永久債というのは資金調達がタイトになった局面でしか発行しません。よほど特異な事情でもあれば別ですが、投資家もコールされることを前提(というか慣例)をもとに「早期償還までは高利でお金を増やそう」という意図でお金を突っ込むわけです。

つまり、コールスキップを行った場合には、投資家と発行体の慣例を破ったことになるのです。

そのため、コールスキップを行った発行体は市場の信用力が低下します。また、コールスキップすると金利が上昇する仕組みになっていることが多いので(信用力が低下した分利子を積めというわけです)、発行体の利子負担は増えてしまいます。

韓国では「永久債は5年満期」というのが常識(慣例)となっています。

ドル建て債券市場の椿事となって……

――というわけで、本線に戻ります。

今回、記事になった『興国生命』の永久債ですが、「コールスキップってあんた……」という異常事態なのです。

債券市場の常識(関連)を破るもので、上掲記事にあるとおり、「2009年の『ウリィ銀行』の外貨建て劣後債以来初めて」です。

それぐらい稀で、今回のコールスキップは「韓国の外貨建て債券市場の信用を大きく毀損すること」なのです。

『興国生命』がなぜコールスキップしたかというと、金利高騰で借り換えできそうになかったからです。

その事情について、『韓国経済』の記事から引用すると以下のような具合です。

『興国生命』は今年09月に理事会を開き、外貨建て永久債発行を推進した。

2017年11月に発行した5億ドル規模の永久債の借り換えのためだった。

通常、資本性証券は約5年後に発行会社が債券を買い戻すことにする早期償還条件が付く。

5億ドルのうち3億ドルは外貨建て永久債で、1,000億ウォンは国内で劣後債を発行して調達するというのが『興国生命』の構想だった。

しかし、金利引き上げなどの余波で新しい外貨建て永久債発行が難しくなり、早期償還をしないという結論を下した。

借り換え発行なしで既存の永久債を早期償還すると、財務健全性指標である支給余力(RBC)比率が下落するためだ。

去る第2四半期基準興国生命のRBC比率は金融当局勧告値(150%)を小幅上回る157.9%(第2四半期基準)だ。

『興国生命』が早期償還を放棄し、該当の永久債金利は2017年発行当時の年4.475%から年6.7%台まで上がる見通しだ。

早期償還をしなければ加算金利が適用される「ステップアップ(step up)」条項のためだ。

『興国生命』は早い時期に投資家に会って返済意志などを伝える方針だ。

『興国生命』高位関係者は「年8%台まで金利を高めたが外貨建て永久債を買い入れようとする投資家は全くなかった」とし「今回の永久債が6カ月ごとにコールオプションを行使できるので、6カ月あるいは1年後に必ず早期償還するだろう」と話した。
(後略)

⇒参照・引用元:『韓国経済』「5億ドル永久債早期償還不発…今回は興国生命発『外貨債危機』」

二進も三進もいかない状況です。

まず、『興国生命』は発行済の2017年発行の永久債5億ドルを早期償還できる状況ではありませんでした。

早期償還ということは、上記でご紹介したとおり、投資家に元本の5億ドルを償還しなければなりません。しかし、その5億ドルを素直に出すと、韓国金融当局のRBC規制に抵触する可能性があって、できなかったのです。

RBCというのは、「合計調整自己資本 ÷ RBCリスク量」で計算します。至極簡単にいえば、リスクの量の何割自己資本を持っているのかを示しており、韓国の金融当局はこれを「150%」と設定しています。

つまり、韓国の生命保険会社の場合には、リスク金額総計の1.5倍自己資本がないと「健全」と認められないのです。

『興国生命』は5億ドルを出すと150%を割る可能性があったので「できない」となったのです。

次の手として、借り換え(ロールオーバー)を企図しました。

借り換え用に「3億ドル規模の新たな外貨建て永久債」を発行し、韓国内で「1,000億ウォンの劣後債」(永久債と仕組みはほとんど同じ)を発行とありますので、残りの2億ドル弱は現金で出すつもりだったと思われます。

ところが、金利の急騰によって外貨建て永久債の新規発行が不可能に。

これで打つ手なし――となり、早期償還はできなくなったのです。

上記でご紹介したとおり、コールスキップを発生させたので、『興国生命』の発行済み永久債の金利は「4.475%」から「6.7%台」に上昇します。

元本が5億ドルですから、利払いが年に「2.225%」上がって、利払い負担は年間「1,112.5万ドル」増えます。

「冗談じゃないぞ、おい」という話ですが、「年8%台まで金利を高めたが外貨建て永久債を買い入れようとする投資家は全くなかった」という、『興国生命』の高位関係者の発言がぞっとさせます。

年8%」でも引き受け手がいないのです。

『興国生命』がやってしまったので、これを受けて外貨建て債券の信用が落下する恐れがあります。

外貨建て債券でさらに金利が急騰したらどうなるでしょうか?

債券によって外貨を調達する手段が閉ざされて、流動性がやせ細ります。また、「ええい!」と高金利で無理やりに外国から借りたりしたら、その分だけ債務不履行(デフォルト)の可能性が高まります。

『興国生命』のコールスキップは痛恨の一事という他はない――そんな状況です。

(吉田ハンチング@dcp)

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