中国『BYD』最大ディーラー「デフォルトか」。BYD販売店に何が起こったのか

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中国の電気自動車メーカー『BYD』が危なくなってきたのではないか?という推測が出ています。

Money1でもご紹介したとおり、2025年05月23日に「22車種で割引販売をする」と急きょ発表し、その後同社の株価は急下落しました(チャートは『Investing.com』より引用:以下同)。


↑2025年05月30日(金)時点での『BYD』の株価推移(日足)。30日時点での終値は「392.80香港ドル」です。

本筋とは関係ないのですが、『BYD』のローソク足1本が1カ月の値動きを示す「月足」で見ると、以下のようになります。

2025年05月は一時「477.80ドル」までいったのですが、結局05月の終値は「392.80香港ドル」。高値から終値まで17.8%の下落です。

同社の値下げ発表は株価の墜落を招きました。

しかし、面白いのは03月の終値・04月の始値・05月の始値がそろっていることです。こういうのを「止まるべきところで止まる」といいます。

チャートの特性はともかく、『BYD』は持続可能なの?――と疑念を持つ人がいます。一部では自動車業界の『恒大集団』か――という声も出ています。

このような声が出るのは、『BYD』最大のディーラーといわれる山東省の『济南乾城汽车贸易有限公』(乾城グループ)が破綻したのでは?――という観測があるからです。


↑『乾城グループ』の店舗の一つ『BYD済南前城店』。

先に書いておきますが、『乾城グループ』が正式に飛んだと確定した――という情報は2025年06月01日時点では確認できません。

もっとも中国の場合には、『恒大集団』の例でも分かるとおりデフォルトでしょうよ、という状況でも企業はずるずると存続し、うやむやな状況が継続します。

BYD最大のディーラー『乾城グループ』に何が起きているのか?

実は『乾城グループ』が危ないのでは?という情報は2025年04月にすでに報道が出ていました。

2025年04月17日、『済南乾城』は『三保サービス(三保服务)事案の処理に関する解決方案』公告の中で次のように述べました。


↑『乾城グループ』の出した文書。

「ここ2年、『BYD』のディーラーポリシー調整により、当社のキャッシュフロー管理に巨大なプレッシャーがかかってきた。

加えて、山東省地域の複数の自動車ディーラー業界で爆雷(破綻)が発生し、現地銀行の融資方針が保守的となったことで、当社への融資がさらに困難になるなど一連の影響を受け、当社の店舗運営資金は巨大な挑戦に直面し、オーナー(顧客)への三保費用の返金を即時に処理できない問題が発生した」

キャッシュフローが逼迫してオーナーへの三保費用の返金を処理できなくなった――と述べています。

この「三保サービス(三保服务)」というのは、中国の自動車業界特有の言い回しで、主に次の3つを指します。

1.保修(保証修理)
2.保养(メンテナンス保養)
3.保险(保険)

メーカー/ディーラーが新車販売時に提供する「一定期間の保証、無料・定額メンテナンス、車両保険パック」の総称をまとめて「三保」と呼ぶのです。

新車を購入するときに、ディーラーに先払いすることが多いのですが、ディーラーが「飛ぶ」ことになると、この先、誰がその3つのサービスを行うのか?――という問題が発生します。

先にご紹介した、世界初のBMW 5S店として注目された『北京星徳宝自動車販売サービス有限公司』が突如閉店・営業終了となったときには、この三保サービスの費用をオーナーに返金せず、従業員の給与も滞納したママで経営陣が失踪。

オーナーたちが「オレのクルマのアフターサービスはどうなるんだ!」「お金を返せ」と激怒する事態となりました。

中国『BMW』旗艦店が閉店に追い込まれる。オーナーは逃亡。社員の給料未払い
中国では(よせばいいのに)電気自動車が幅を利かすようになっており、国産電気自動車メーカーが販売台数を大きく伸ばしています。その一方で、外国自動車メーカーのクルマが売れなくなっています。国産自動車で外国企業のクルマを締め出す――という中国共産...

『済南乾城』が04月17日に出したこの公告は、『微博』(Weibo)などで拡散され、多数のオーナーが「前払いの三年聯保(保証)費用が返ってこない」「店舗閉鎖で約束が履行されない」などの投稿を行いました。

ネット上では『乾城グループ』関連の内部資料のスクリーンショットや、経営不振をうかがわせる書き込みが相次ぎました。

ネット上での暴露を受けて中国の経済・自動車メディア(『新浪財経』『搜狐』など)が「山東最大のBYDディーラー『乾城グループ』が資金難で爆雷(破綻)か」との報道を出すに至りました。

実際、ディーラーを取材してみると、4S店が次々と閉店されていることが分かりました。


↑もぬけの殻となった『BYD済南前城店』のショールーム。

例えば、2025年05月29日の『新浪財経』の報道から以下に一部を引用すると、こんな具合です。

今年04月以降、『BYD』の山東省における中核ディーラー、『山東乾城控股有限公司』およびその4S店が経営危機に陥った。

傘下の済南、潍坊、泰安、徳州などに所在する少なくとも20余りの「乾」を冠したの4S店が次々と「人去楼空」という営業停止の状態となった。

「人が去って建物だけが残る」という意味。

影響を受けた店舗には、済南乾信、乾盛、乾宇、乾益、潍坊乾正、乾汇、乾通、泰安乾恒、徳州乾順などが含まれる。

このうち済南乾盛店はかつて「大中華区NO.1旗艦店」と称され、匡山付近に位置していたが、今では店内は空っぽで、たった2名のスタッフが残っているだけだ。

今回の騒動は直接的に1,000人以上の消費者に影響を及ぼしており、彼らが前払いした「三年聯保」保険料、メンテナンスパッケージ、車両フィルム施工、シャーシガード、さらには生涯メンテナンスや塗装サービスなどの約束が履行されず、広範な消費者の権利保護運動とBYDブランドの監督責任に対する疑問を引き起こしている。

(中略)

05月28日午後、記者が『BYD済南乾盛店』を訪れたところ、店舗外の看板はまだ取り外されておらず、店内は照明が消され、新車引渡しエリアを含め大部分が空で、「継続保険団体購入会」の広告看板がまだ残っており、『BYD』の求人広告が店内に置かれていた。

アフターサービスエリアでは2人のスタッフが作業席に座っており、まだ『山東乾城控股有限公司』の作業服を着ていた。

スタッフによると同店舗はオーナーが変わり、現在は『BYD』車の販売を一時停止しているという。
(後略)

⇒参照・引用元:『新浪財経』「BYDの中核ディーラーである山東省乾城集団が営業を停止。済南、濰坊、泰安、徳州などの20以上の4S店舗が閉鎖され、数千人の自動車所有者が前払い金を失った」

すでにディーラー店舗が少なくとも20店舗以上が閉店しており、オーナーも変わっている――というリポートが泣かせます。オーナーの皆さんの被害額はどのくらいなのでしょうか。

同記事によると、

複数のオーナーによれば、購入時に営業担当者がこのサービスを強く勧め、通常は一括で3年分の保険料を前払いさせ、金額は1万元から1万5,000元程度が多い。

例えば、あるオーナーは「BYD驱逐舰05(駆逐艦05)」モデル(『BYD』製電気自動車のモデル名:引用者注)を購入時、追加で1万2,500元の三年聯保パック(3年分の保険パッケージ)を契約していた。

4S店側は、後の2年分の継続保険については、オーナーがまず立て替え払いし、その後4S店が返金することを約束していた。

しかし2025年04月以降、大量のオーナーが2年目、3年目の保険料を立て替えたものの、『乾城グループ』傘下の4S店からの返金が一向に届かないという状況に直面している。

例えば、2024年05月04日に『済南乾城』4S店でBYD秦PLUS DM-i(『BYD』製電気自動車のモデル名:引用者注)を購入した消費者は、2025年分の保険料を立て替えたものの、いまだに返金がされず、店舗はすでに無人状態になっている。

また、一部の車主は購入時に約束されていた車両フィルム施工やシャーシガードなどの付属品も未履行だと述べている。
(後略)

クルマを購入したオーナーは、返金がまったくされないし、この後のアフターサービスとかどうすんだよ――という状況に陥っています。

では、なぜ『乾城グループ』は夜逃げしなければならないほど資金がタイトになったのでしょうか?

「BYDによる施策の変化」とは何を指しているのか?

Money1でも少しご紹介してきましたが、そもそも中国自動車市場では2024年末以降、多くの販売店が経営難に陥り、4S店数は2024年末時点で32,878店と前年から2.7%減少するなど厳しい状況が報告されていました(2021年以来初のマイナス成長)。

このままでは食べていけなくなる――という悲鳴が2024年時点で上がっていたのです。

『乾城グループ』自身の公告では、上記のとおり「政策調整により資金繰りに巨大な圧力がかかった」とし、『BYD』側の販売店向け施策を問題視しています。

具体例としては、他メディア報道から『BYD』の販売方式「以产定销(生産量に応じて販売)」モデルにより、販売店に大量在庫を抱え込ませる仕組みになっているとの指摘があります。

自動車業界系メディアによれば、『BYD』は販売奨励金(リベート)を在庫数量と連動させており、『乾城グループ』は、2024年に在庫回転期間が127日と業界平均を大きく上回る状態でした。

この「在庫圧迫」モデルは最終的に市場リスクを販売店側に転嫁している――と解説されています。

このように、中国の一部メディアでは「在庫を抱えさせる」点が指摘されていますが、「強制的な販売ノルマ」や「在庫押し付け」、「奨励金の削減」などの表現は公式報道では確認できていません。

『乾城グループ』の公告で示されたのはあくまで「经销商政策调整(販売店向け政策の変更)」という表現であり、具体的内容は示されていません。

また、『乾城グループ』側が採用していた預付制サービス(「三年联保」など)が返金不能となった事例が多数報じられましたが、これは販売店側の経営破綻によるもので、『BYD』本社の直接的介入・圧力に関する言及ではありません。

推測するしかないのですが――、

電気自動車が以前のように売れなくなり(これには中国経済がどん底景気に落ち込んでいることが大きな要因です)、在庫がたまるようになった。

これによって、ディーラーに入る報奨金が減少。加えて『BYD』がコストカットに乗り出し、報奨金をカットする、あるいはそれに類する仕組みを導入。これによってキャッシュフローがさらに厳しくなった。

これが「販売店向け政策の変更」ではないでしょうか。

さらに、銀行が融資を絞っており必要なお金が入手できなくなった、加えて拡大路線をとってきたため多額の負債を抱えており、元利払いが回らなくなった。

――という線はどうでしょうか。

『BYD』はどのように対応しているか?

問題は、最大のディーラーが夜逃げ同然に多数の店舗を締めている状況に『BYD』がどのように対応しているのか?――です。

ネット上で最大ディーラー破綻のうわさが拡大したことに対して、2025年05月28日、『BYD』は「うわさは事実無根」という反論を公開しました。以下です。

网传信息不属实!过去几年,我们对经销商的政策连续且稳定。据了解,该经销商集团由于盲目极速扩张并加杠杆运营,导致资金链出现问题。去年底以来,该经销商集团的部分4S店,已被当地其他经销商收购。我们对该经销商集团也在进行纾困支持,协助该经销商集团妥善处理其客户及员工的相关问题.

ネット上で流れている情報は事実ではありません!

過去数年間、当社はいずれのディーラーに対しても一貫した安定した政策を実施してきました。

関係者によると、当該ディーラーグループは盲目的な急速な拡大とレバレッジを効かせた経営により、資金繰りに問題が生じました。

昨年末以降、当該ディーラーグループの一部4S店は、現地の他のディーラーに買収されています。

当社は当該ディーラーグループに対し支援措置を実施し、顧客および従業員に関する問題の適切な解決を支援しています。

⇒参照・引用元:『新浪財経』「乾城の資本チェーン問題が騒動を引き起こし、BYDは原因を明らかにして支援を提供した」

これは『新浪財経』の記事内にある、BYDグループのブランド広報部関係者による発言――です。

「独占的に回答」ことなのでウラが取れません。また、本来なら『BYD』が公式サイトでプレスリリースを出すべきと思われますが、2025年06月01日22:17時点で、そのようなプレスリリースは確認できません。

本当に『BYD』は「当該ディーラーグループに対し支援措置を実施し、顧客および従業員に関する問題の適切な解決を支援てい」るのでしょうか?

あと数時間で、2025年06月02日(月)の市場が開きます。『BYD』の株価がどうなるのか?に要注目です。

中国の5S店とは、自動車業界において提供されるハイエンドな販売およびサービス体制を示すもので、通常の4S店(販売、修理、スペアパーツ、サービス)に加え、もう一つの要素が追加された店舗形態です。5S店は、中国の高級車ブランドなどが特に採用する形式で、顧客体験の向上を目的とした総合的なサービスを提供します。つまり、この『北京星徳宝自動車販売サービス有限公司』は特別なお店だったのです。

ちなみに、通常の「4S」店に追加される「もう一つのS」は、同店舗の場合はSustainability(持続可能性・環境対応)です(他のSの解釈もアリ)。

(吉田ハンチング@dcp)

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