Money1では、ここのところ韓国企業が資金繰りで困っているという件についてご紹介してきました。ところが、今度は企業にお金を供給する銀行自身に「貸し出すためのお金がない」という話になっています。
2020年04月01日、『中央日報(日本語版)』に「韓経:韓国大企業まで資金干上がる…銀行の貸付急増」という記事が出ました。一部を以下に引用します。
(前略)
31日の金融圏によると、国民銀行、新韓銀行、ハナ銀行、ウリィ銀行の4大銀行の3月の大企業向け貸付規模は前月比7兆9,780億ウォン増加の71兆3,388億ウォンを記録した。2008年の金融危機以降で最大水準だ。前月比の増加幅でも過去最大だ。金融業界関係者は「昨年まで大企業向け貸付は増えてもせいぜい1兆ウォン水準だった。1カ月で8兆ウォン近く増加したのは極めて異例」と話した。
(後略)
※赤アンダーラインは筆者による(以下同)
まず、企業への貸付が異常に増加しており、これが2008-2009年の「韓国通貨危機」時以来の規模となっています。
問題は以下の部分です。
(前略)
貸す財源も底をついている。
主要銀行が「このまま行けば貸付の供給に問題が生じかねない」として銀行連合会を通じてウォン流動性カバレッジ比率(LCR)規制緩和を金融委員会に建議した理由だ。
4大銀行のウォンLCRは3月末に102~105%を記録した。金融当局が各銀行に提示したウォンLCR規制比率の100%をかろうじて超える水準だ。貸付需要が爆発的に増え銀行の健全性も揺らぎ始めたという話だ。
(後略)
「流動性カバレッジ比率(LCR)」なんて言葉は金融関係の仕事をされている方以外は知らないでしょう。何をいっているのか分からなくて当然ですが、ここは非常に重要なポイントです。
「LCR」(Liquidity Coverage Ratio:略称LCR)とは、簡単にいえば「銀行がどのくらいお金の流出に耐えられるのか」を示す数値です。
銀行こそお金の供給源ですので、多少のお金が出ていったところで倒れるようでは困ります。そこで、「このくらいのお金は保有しておくこと」という規制が敷いてあるのです。
具体的には、「1日のお金の純流出額※」を30倍した「すぐに現金に換えられる資産」を持っていないといけません。つまり30日分の「すぐに現金に換えられる資産」を持っていないとならない――と決まっているわけです。これをLCRで表します。
LCRの計算式は以下になります。
式でも分かるとおり、LCRが「100%」なら「30日のお金の(純)流出にも耐えられる」というわけです。
本線に戻ります。
韓国では「LCRは100%以上」でないといけません(外貨については下の記事でご紹介したとおり「80%」でしたが、これを「70%」に緩める決定をしました)。
ところが、03月末にはLCRが「102-105%」になってしまったと記事はいっています。つまり、あと「2-5%」分の資金しか貸し出すことができないわけです。
そこで、主要銀行は「LCRを緩和するように」金融委員会に訴えたのです。
確かにLCRを緩和することは、資金を提供することには役立ちます。しかし、一方でそれだけ銀行の健全性を損ねることになります。
というわけで韓国では銀行も資金が逼迫しており、いよいよ正念場といったところです。
※1日のお金の純流出額は、「1日のお金の流出額」から「1日のお金の流入額」を引いて求めます。銀行には、お金が入ってきますし、また出て行きますので。
追記
純流出額の計算方法が誤っておりましたので訂正いたしました。誠に申し訳ありません。
(柏ケミカル@dcp)