2022年12月21日、韓国『日帝強制動員被害者支援財団』の定款に「被害者に賠償できる」という条項を加えました。
先にご紹介したとおり、「代位弁済の準備を始めたのではないか」と見られるわけですが、このスキームは以下のようなものです。
今回の「いわゆる徴用工問題」裁判では、日本企業が被告で債務者、自称徴用工が原告で債権者なわけですが、これに『日帝強制動員被害者支援財団』が新債務者として参加します。
1.原告・自称徴用工:債権者
2.被告・日本企業:債務者
3.『日帝強制動員被害者支援財団』:新債務者
プレーヤーが3者になります。債務を負う者が「被告・日本企業」と『日帝強制動員被害者支援財団』になります。
つまり、「被告・日本企業」の負った債務を『日帝強制動員被害者支援財団』も負うという形を作るのです。
その債務を『日帝強制動員被害者支援財団』が全て引き受けるのか、それとも「被告・日本企業」と共同で引受けるのかの2パターンがあります。
1.「被告・日本企業」の負った債務を『日帝強制動員被害者支援財団』が全て引き受ける
⇒免責的債務引受
2.「被告・日本企業」と『日帝強制動員被害者支援財団』が共同で債務を引き受ける
⇒併存的債務引受
↑免責的債務引受の場合には、「被告・日本企業」の債務はなくなります。つまり「免責的」です。
↑併存的債務引受の場合には、「被告・日本企業」と『日帝強制動員被害者支援財団』が共同で債務を引き受ける形になります。
先にご紹介したとおり、韓国メディア『ハンギョレ』では「併存的債務引受」と書いていましたので、Money1でも「2」を目論んでいるという記事を上げました。
しかし、『日本経済新聞』に興味深い記事が出ました。
「韓国政府『財団肩代わり』調整急ぐ 元徴用工原告は反発」というタイトルですが、同記事では「1」の免責的債務引受が狙いだと指摘しているのです。
⇒参照:『日本経済新聞』「韓国政府『財団肩代わり』調整急ぐ 元徴用工原告は反発」
同記事では、上掲の「1」を取れば、自称徴用工(債権者)は法律的に手が出せないと指摘しています。
どういう主旨かというと……。
免責的債務引受が成立すれば……という話
新債務者『日帝強制動員被害者支援財団』が参加して免責的債務引受が成立するには、債権者・債務者・新債務者の合意について、以下の3つのパターンが考えられます(あくまで日本の民法上の考察:第472条)。
「原告・自称徴用工」「被告・日本企業」『日帝強制動員被害者支援財団』でスキームに合意する
②債権者と新債務者の2者間の合意
「原告・自称徴用工」と『日帝強制動員被害者支援財団』でスキームに合意する
③債務者と新債務者の2者間で合意し債権者が承諾する
「被告・日本企業」『日帝強制動員被害者支援財団』でスキームに合意し、「原告・自称徴用工」が承諾する
『日本経済新聞』の記事では、債務者(日本企業)と新債務者(財団)が契約して「債務の譲渡」を行い、免責的債務引受のスキームを取った上で、財団が支払うお金を原告・自称徴用工(債権者)が受け取らなかったとしても、裁判所に供託してしまえばいいのだ――としています。
こうすれば「法的に債権者は何もできない」としているのですが、それはスキームが成立したらの話です。
まず、スキームを成立させるために③をとって、「被告・日本企業」『日帝強制動員被害者支援財団』で合意できたとしても、債権者の合意が必要です。
この段階で、原告・自称徴用工側が合意するかどうかが問題になります。韓国政府が原告・自称徴用工を説得できるでしょうか。
次に、先の記事でもご紹介したとおり、「被告・日本企業」と『日帝強制動員被害者支援財団』との間で債務譲渡の契約を結ぶとすると、「被告・日本企業」が今回の国際法に違反した判決による「債務」の存在を認めたことになります。
これは1965年の日韓請求権協定による「日本の朝鮮半島に対する債務はこれで一切なくなった」という一貫した主張に違反するものです。
これをどうするのか?は大問題でしょう。債務譲渡契約を締結すると、後々まで「日本は債務があると認めたよね」と主張されかねません。相手は韓国ですので、そのようなリスクについて細心の注意を払うべきです。
(吉田ハンチング@dcp)