中国では失業問題が深刻になっています。
就職口がそもそもありませんし、給与カットも行われて給与水準も下がり、いくら履歴書を送っても採用されない(面接にも進めない)という地獄のような様相です。
日本にも就職氷河期といわれる時期がありましたが、当時を経験した方は今でも心の痛みを抱えているかもしれません。自分がちっとも悪くないのに社会から拒否されるばかりでは傷ついて当然です。
中国はまさにかつての日本よりもひどいどん底の状況にあります。
若者が自分の未来を悲観する社会ほど悲しいことはありません。
一方で、Money1でもご紹介したとおり、中国の地方政府は財政難です。お金がないので、失業者を救うためのセーフティーネットも十分に機能しなくなってきました。
『Radio Free Asia』が「中国・深センで、以前給付した失業保険を返還しろ」という事例が増えてきた――と報じています。記事から一部を以下に引いてみます。
中国経済の低迷が続き、失業者が増える中、ソーシャルメディア上で政府から失業手当の返還を求められたという投稿が相次ぎ、ネットユーザーの間で失業保険基金が枯渇するのではないかという懸念が高まっている。
香港のメディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は07月04日、中国・深セン市の最新データとして、2024年第1四半期の新規失業登録者数が4万人を超え、過去最高を記録したと報じた。
これは前四半期比で15%増、前年同期比では40%増となる。
失業手当の受給資格を得るためには、失業登録が不可欠である。
深セン市人力資源と社会保障局の公開データによると、2023年の失業手当受給者数は21万1,500人に達し、前年比で35%増加しており、この一線都市における失業率の上昇が浮き彫りになっている。
(中略)
しかし、最近失業手当の受給基準が厳しくなっただけでなく、すでに受け取った失業手当を返還するよう求められた人もいるという噂がネット上で広まっている。
(中略)
ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の記者は深セン市人力資源と社会保障局の公式サイトを確認したところ、2023年05月以来、「失業手当の取り消しと返還に関する決定」と題する通知がほぼ毎日掲載されていることが分かった。
手当の返還対象となった人数は1日あたり数人から数十人となっている。手当の返還対象となった人の大半は2020年から2022年の間に失業手当を受給しており、その主な理由として、ペーパーカンパニーを登録して社会保障費を支払っていたことや、再就職したことなどが挙げられている。
「以前給付した失業保険を返還しろ」という事例が増えているということで、筆者も深セン市人力資源のHPを調べてみました。
確かに、以下のような「返金しろ」という決定通知書が散見されます。
↑文書が発行されたタイムスタンプは2024-07-10 16:44。発行者は深セン市社会保障基金管理局です:Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください/スクリーンショット
↑このように「この決定通知の到着日から 10 営業日以内に、上記の金額を次の口座に返金してください」と書いてあります。
公的機関からの返金要求です。
失業基金が枯渇しているのでは?
失業保険というのは、働いているときに保険料率に従って支払い、一定期間納付した人が失業した際には、規定の金額が受け取れる――という仕組みです。
労働者が支払った保険料は失業保険基金に積み立てられて、これが失業保険給付の財源になります。
すでに基金から支払った失業保険給付を返還しろ、などと無茶なことをいうのは――もしかしたら、失業保険基金がすでに枯渇している(あるいは枯渇しそう)のではないか?という推測が出ています。
とにかく失業する人が多ければ、失業保険を納付する人が減少し、失業保険をもらう人が増え――つまりは失業保険基金からお金が出ずっぱりになるので、当然これが続くと基金のお金だって枯渇します。
しかし、深セン市の失業保険基金の残高がいくらあるのか?――というストックのデータは見つかりません。
韓国ですら一応公開しているというのに(探せば報道などで見つかる)、隠蔽しているとしか考えられません。
計算が合わない! 82億元はどこに消えた?
さらに不可解なのは数字が合わないことです。
深セン市の公開データによれば、2022年の失業保険給付を受けた人は15.66万人です。以下のように深セン市の失業保険の金額は定められています。
2022年01月からは「月額:2,124元」となっています。
計算してみると、
2,124元 × 12カ月 × 16.66万人 = 39億9,142万元
になります。約40億元が失業保険給付金額であるはずです。
ところが、深セン市の公表データでは支出が「122億元」となっているのです。
差し引き、約82億元です。
このお金はいったいどこに消えたのでしょうか?
(吉田ハンチング@dcp)