IMFのコシー・マータイ氏(アジア太平洋担当副局長)が2016年12月2日に注目すべき発言を行ったと報道されました。「韓国は極端な速度で進行している高齢化により成長が鈍化する」というのです。しかし、これは何も韓国に限ったことではありません。アジア諸国全般に当てはまることなのです。
日本は少子高齢化社会に入り、年金、老後の生活など多くの問題が顕在化しています。しかし、実は日本以外のアジア諸国では、日本以上に急速に少子高齢化が進むのです。驚くかもしれませんが、アジア地域は急速に老化が進むと予測されるエリアなのです。
アジアの少子高齢化のスピードは速い!
「人口爆発」なんて言葉がありまして、「このまま人口が増えていくと地球上の資源が食い尽くされ、人類は人口爆発によって自滅する」なんて未来像があったほどです。ところが、現在も人口が増加していますが、先進国、開発途上国の多くで人口は減少に転じています。出生率が落ち、少子化に転じたのです。
少子化に転じると、そのうち人口が減少に向かい、それまで人数の多かった世代が老齢となって、高齢化社会、そして高齢社会になります。
その国が高齢化に向かうスピードを表すのに「倍加年数」という数字が使われます。これは、「高齢化社会」が「高齢社会」になるまで、どのくらいの年数がかかったかを示すものです。
*……高齢化社会とは高齢化率が7%を超える社会、超高齢社会とは高齢化率が14%を超える社会、と定義されています。
では、アジア諸国の「倍加年数」をピックアップしてみましょう。
●日本
高齢化率7%:1970年
高齢化率14%:1994年
倍加年数:24年
●韓国
高齢化率7%:1999年
高齢化率14%:2016年
倍加年数:17年
●中国
高齢化率7%:2001年
高齢化率14%:2024年
倍加年数:23年
●タイ
高齢化率7%:2001年
高齢化率14%:2022年
倍加年数:21年
●インドネシア
高齢化率7%:2016年
高齢化率14%:2035年
倍加年数:19年
●ベトナム
高齢化率7%:2019年
高齢化率14%:2034年
倍加年数:15年
日本の「24年」も世界的に見ると驚きの数字でした。というのは、先進国の倍加年数は、
●フランス:115年
●イギリス:47年
●ドイツ:40年
というものだからです。しかし、上に見られるとおりアジア各国の倍加年数は日本よりも短いのです。つまり、アジア諸国は急速に老齢化社会、そして老齢社会に入っていくということです。
*……このデータは『老いてゆくアジア 繁栄の構図が変わるとき』P.37より引用しています。低位推計を抜粋して表記。
経済発展の追い風になる「人口ボーナス」って何!?
最近経済の記事を読んでいると「人口ボーナス」という言葉を散見しませんか? これは人口構造が経済に追い風となるという考え方で、この視点はとても重要なものとなっています。ぜひ「人口ボーナス」について知っておきましょう。
人口ピラミッドという言葉がありますね。子供がたくさん生まれて、老人が少ない社会では、各世代の人口がどのくらいいるかを表した人口分布図は、その名のとおりおおむね三角形のピラミッド形になります。
これは子供がたくさん生まれて、たくさん死ぬ社会の人口構造といわれます。これがうまく少子化に転じると、経済的発展にとって良い効果が生まれます。
●少子化によって、子供1人当たりに与えることのできる資本が増え、結果、質の高い教育をすることができる
●生産年齢人口が多いので、そこで多くの貯蓄ができる
●社会資本ストックが増加する
●高齢人口がまだ少ないので、そのための福祉に多くのお金が必要ない
●少子化なので、その世代(年少世代)に投入するためのお金が少なくて済む
これらの効果を「人口ボーナス」と呼ぶのです。
日本ももちろんこの「人口ボーナス」を追い風に大きな発展を成し遂げました。でも、その効果も終わるときが来ます。
大泉啓一郎先生の『老いてゆくアジア 繁栄の構図が変わるとき』によれば、日本の人口ボーナスの「終点」は「1990-1995年」とされています。人口ボーナスを享受し終わりましたが、日本の1人当たりのGDPは「36,331.74ドル」(2014年)となっています。
人口ボーナスはその国の経済を大きく発展させる大きな要因です。日本は実にうまくそれを利用して、世界第2位の経済大国になりました。
実は、この先が問題なのです。急速に老化していくアジア諸国は、その人口ボーナスが終わるまでにどこまで経済発展ができるだろうか……というわけです。さて、どうなるでしょうか!?
*……「人口ボーナス」という考え方が一般に認知されるようになったのは、大泉啓一郎先生の著作『老いてゆくアジア 繁栄の構図が変わるとき』が登場してからのことでしょう。この本はアジアの将来を考える上で大きな示唆を与えてくれます。より詳細に知りたい人はぜひ読んでください。
(高橋モータース@dcp)