韓国の通貨ウォンがかつての通貨危機水準まで安くなっています。本来であれば、ウォン安は輸出に依存している韓国にとっては福音のはずです。
ウォンが安くなると輸出製品の価格戦闘力が増し、より多く売れるはずだからです。
しかし、今回のウォン安進行ではこれがうまくいっていません。輸出は確かに伸びていますが、それよりも輸入の方が大きく伸びて、「輸出 – 輸入」で求める貿易収支が赤字傾向となり、輸出増加がちっとも利益にならないという異常事態だからです。
韓国がドボン騒動を起こした1997年アジア通貨危機、2008~2009年の韓国通貨危機では、危機を乗り越えるのにウォン安は大きな役割を果たしました。
今回はそれをご紹介します。
「ドルウォンのレート」と「国際収支統計の貿易収支」の推移を重ねて表示すると、ウォン安がいかに「経済危機からの回復に役立ったのか」がはっきり分かるのです。
アジア通貨危機時の韓国
まずアジア通貨危機時です。1996年01月~1998年12月の月次が以下になります。ドルウォンレートはその月の終値をプロットしました(以下同)。
↑ドルウォンレートは右軸。貿易収支は左軸で単位は100万ドルです(以下同)。
当時の韓国の貿易収支はひどい有様で、ご覧のとおりオレンジの線がほぼ「ゼロ」の下にあります。つまり赤字ばっかりです。
朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の「開発独裁」による輸出立国は正解だったのかもしれませんが、このとおり大赤字で、このため経常収支は常に赤字という状況でした。
なぜ国が持っていたかというと、この外貨出ずっぱ状況をファイナンス(穴埋め)するために海外からお金を融資してもらっていたからです。海外から入手した資金を償還できなくなったことが、1997年に起きたドボン騒動の本質です。
ご注目いただきたいのは、青のドルウォンレートが急激に上昇(ウォン安の急進)し、これに遅れて貿易収支が急速にプラスに転じていることです。
これによって経常収支も黒転。韓国は危機から回復したのです。これがウォン安の効果です。
ただし、『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)に泣きついたのが1997年11月ですので、もちろん事実上のデフォルトした後に回復したわけです。
韓国通貨危機時の推移
次に、2008~2009年の韓国通貨危機時を見てみましょう。
この当時はちょっと捻りが入っています。
2007年は曲がりなりにも貿易収支は黒字で回っていました。ところが2007年の終わりから急激に悪化。上掲のとおり、オレンジの線が急降下しています。
2008年は貿易収支が異常に小さくなって赤字も記録。このファンダメンタルズの悪化によって、資金が抜けてウォン安が急進します。アジア通貨危機の時と同じく、遅れて貿易収支が急激にプラスに転じて上昇。
これによって韓国は危機から脱出したのです。これもウォン安の効果です。
「もうアカン」として韓国が『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)に泣きついて「通貨スワップ」(ドル流動性スワップ)を提供してもらったのは2008年10月ですから、回復したのはその後ですが。
という具合に、「ウォン安」は危機に陥った(というか事実上デフォルトした)韓国経済を回復させるのに大きな役割を果たしました。
今回、もし……
さて現在です。
韓国は「ファンダメンタルズは堅牢」とされているにもかかわらず、かつての通貨危機水準までウォン安が進行しています。しかし、貿易収支は大きく減少、国際収支統計でも2カ月連続の赤字です(07月と08月)。
仮に、ここから韓国が通貨危機のような状況になったとしたら、上掲のようにウォン安で貿易収支が大きく改善して救われるでしょうか? もし救われるとして、そのときドルウォンレートはいくらになっているのでしょうか?
(柏ケミカル@dcp)