小ネタかもしれませんが興味深い件なのでご紹介します。
韓国メディア『フィナンシャルニュース』に「【輸出規制2年]韓国510兆 vs 日本2兆[グローバルレポート]」というタイトルの記事が出ています。
記事の主旨としては、アメリカ合衆国と中国の対立に端を発した半導体サプライチェーンの組み換えが行われており、日本、韓国ともその対応に追われている。日韓とも政府が主導で半導体産業を盛り上げようとしているが、韓国と日本では予算の投入の仕方が違い、韓国は圧倒的だというのです。
記事から一部を以下に引用します。
(前略)
政府主導で半導体復活を推進するとしたが、カギは予算である。現在まで、日本政府の半導体予算は約2,000億円(約2兆ウォン)程度に過ぎないのが実情である。
半導体工場1件当たり10兆ウォン以上が投入されている現実を考えると、非常に不足した金額だ。
韓国が民間主導の510兆ウォン規模の投資を予告した状況で、日本政府が果たしてどの程度まで半導体産業に実弾を注ぎ込むのかに関心が集まっている。
(後略)
この書きようで、「韓国は510兆ウォンも投入するのに、日本は2兆ウォンしか資金を入れない」と揶揄(やゆ)しているようですが、これは全くミスリードを誘う記事で、しかも根本的に間違っています。
日本政府は実弾を撃つが、韓国政府はびた一文出さない
ここで書かれている日本の2兆ウォン(2,000億円)というのは、『日本国 経済産業省』が策定した「半導体・デジタル産業戦略」中の研究開発面での「ポスト5G基金(2,000億円)」を指しているようですが、これは実際に政府が突っ込む資金の量です。
この基金は2019年12月にまとめた経済対策で創設され、2020年12月の段階ですでに1,100億円が投じられており、平成20年度の第3次補正予算でさらに900億円を積み増し「2,000億」となっているのです。
また、「半導体・デジタル産業戦略」では「グリーンイノベーション基金」として2兆円(ざっくり20兆ウォン)規模の研究開発費が投じられるのです。
これに民間企業・研究機関が参加するのでその投入資金規模は大きく膨れあがります。
↑経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略について(要点)」という文書。
⇒引用元:『日本国 経済産業省』公式サイト「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめました(2020年06月04日)」
一方、『フィナンシャルニュース』が「510兆ウォン」などと誇っているのは、Money1でもご紹介したことのある、2021年05月13日に文在寅大統領自ら発表した「K-半導体戦略」のことを指しています。
簡単にいえば以下です。
今後10年間で韓国企業が510兆ウォン(約50.0兆円)以上を半導体に投資し、政府が施設投資と税額控除の拡大など、強力なインセンティブを提供する
お気付きになりますでしょうか?
つまり、これは「韓国企業が」510兆ウォン以上を投入する――と政府が勝手に述べているだけのものです。
政府自身は身銭を切ることなく「お前らが巨額を投資して頑張れ」という話に過ぎません。
一応韓国政府の名誉のために補足しますが、税額控除などのサポートを行う旨は表明しています。
すでに政府が実弾を発射して戦いを始めているプロジェクトと、企業に丸投げのプロジェクトが根本的に違うことは自明のことでしょう。そもそも企業に丸投げのプロジェクトをなぜ政府主導のように見せて公表しているのかも謎です。
「510兆ウォン」などと号していても、誰が出すのか、本当に出るのかも分からない以上は絵に描いた餅。ですから、これはミスリードを誘う記事としか思えません。
(柏ケミカル@dcp)