米韓首脳会談が現地時間の2023年04月26日に行われますが、韓国メディアは相変わらず「米韓通貨スワップ締結すべし」を連呼しています。
「すべし」も何も決めるのはアメリカ合衆国。合衆国のニーズがないとドル流動性スワップ(韓国側呼称は「通貨スワップ」)は締結されません。
なぜこのように焦っているかというと、Money1でも毎日ご紹介しているとおり、ドルウォンのレートがウォン安方向に傾いてきているからです。
ついに「1ドル=1,340ウォン」を突破するかも……という勢いも見せています。これまでは「1ドル=1,200ウォン」が心理的な抵抗線だったことを考えれば、韓国にとっては危機的水準といってもいいぐらいです。
↑2023年04月26日10:00現在のドルウォンチャート(チャートは『Investing.com』より引用)
韓国メディアは通貨スワップを連呼しているのですが、『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は一蹴。
「外貨準備高も4,250億ドル以上残っており、どのような変化があっても私たち自身が以前のようにあまり不安になる必要はない」と発言しています。
韓国メディアはそれでも不安なようで、『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)のARA基準(Assessing Reserve Adequacyの略)に照らして「韓国は外貨準備高の適正水準より保有額が下がってきた」と指摘しています。これは面白い指摘です。
『IMF』ARAについては、かなり前にご紹介しましたが、簡単にいえば危機に備えてこれだけ持っていればいいよ、とした参考指標です。
韓国は1997年のアジア通貨危機時には、ARA基準の61.5%しか外貨準備高がなく(しかもウソをついていた)、1998年には「86.4%」と同基準では脆弱でした。
しかし、「2000年:114.3%」と基準を大きく上回るところまでいき、以降は100%を超え続け、2019年は108.1%でした。
これが、コロナ禍の2020年にがたっと崩れます。
2021年:99.0%(4,677億ドル)
2022年:97.0%(4,362億ドル)
※( )内はARAによる『IMF』が適正基準と認める韓国の外貨準備高
と100%を切り、下げ続けています。
ただし、これは参考値であって、100%を切ったからスグ危ないというわけではありません。『国際金融センター』に興味深いグラフがあるので、これを以下に引いてみます。
↑驚くべきことに、中国は3兆ドル以上の外貨準備高を保有しながら、実は『IMF』のARA基準を大きく下回る水準でしかないのです。
※大本のデータは『IMF』
上掲に台湾、シンガポールはありませんが(未公表)、韓国の外貨保有高の水準は、『IMF』基準からすると他のアジア諸国と比較して実はそれほど多い方ではないのです。
よく「中国は外貨準備高が3兆ドルを超えているので大丈夫」といった言説がありますが、絶対的な金額ではなく経済規模から判断した「一朝事あらば必要な金額」を示すARA基準からすれば、こういう結果になります。
ただし、繰り返しますがこれはあくまでも参考の指数です。
韓国の場合、それよりも「公表しているだけの外貨準備高が本当にあるのか」です。
1997年のアジア通貨危機のときのように「貸し出していたり、市中銀行に売っていた」ら、それは「あること」になりません。
また、『国民年金公団』にドルを貸し出す「為替スワップ」(表記は韓国メディアに合わせます)を締結しているのです。
この契約によって韓国金融当局が有するドル、すなわち外貨準備は『国民年金公団』のウォンと交換されて外国のSecurities(証券類)に投入されます。その分、外貨準備が使えなくなるはずです。
※念のために付記しますがこの契約は『国民年金公団』が保有するドルを韓国金融当局に提供するものではありません。逆です。韓国金融当局が『国民年金公団』にドルを提供します(『国民年金公団』の提供するウォンと交換する)。
ウォン安阻止のためとはいえ、このような契約を締結しているのはいかがなものか――です。
韓国『世宗大学』のキム・デジョン経営学部教授※のように「9,000億ドル以上いる」というのも極端な意見ですが(一応BIS基準による)、『IMF』のARA基準で見ても水準を満たさなくなっていますので、韓国の外貨準備には要注目です。
※キムさんは「韓国の外貨準備高は全然足りない。安全弁として米韓通貨スワップ、日韓通貨スワップを締結せよ」と主張する名物教授です。韓国メディアでもしばしば登場します。名前を見かけたら「おっ!」と思ってください。
(吉田ハンチング@dcp)