G7は終わりましたが、中国共産党の英語版御用新聞『Global Times』の記事が大変に面白く、目が離せない状況になっています。
G7から『NATO』首脳会議へ!
G7終幕直後の2021年06月14日、『NATO』(The North Atlantic Treaty Organizationの略:北大西洋条約機構)の首脳会議がベルギー・ブリュッセルで開催されました。
G7に出席した『NATO』加盟国首脳の皆さんはそのままベルギーに移動。アメリカ合衆国のバイデン大統領ももろん参加したのですが、トランプ前大統領と異なり、バイデン大統領は『NATO』をアメリカの国益にとって重要なものであると述べました。
日本の大手メディアでは、『NATO』首脳会議の共同声明で中国を安全保障上の懸念であると指摘し、反中国の強い態度を示したとしましたが……実はそうでもないのです。
上掲は『NATO』首脳会議のコミュニケですが、全79節からなる長い文書の中で、中国(China)と名指しの単語が入っている節は、実は3つしかありません。
日本で「中国を体制上の挑戦と書いた」と報じられた箇所は恐らく55節のことですが、以下に引用してみます。
55.
中国が表明している野心と自己中心的な行動は、ルールに基づいた国際秩序と同盟国の安全保障に関連する分野において体系的な課題を提示している。
我々は、ワシントン条約に謳(うた)われている基本的価値観とは対照的な強圧的な政策に懸念を抱いている。
中国は、核の三本柱を確立するために、より多くの弾頭とより多くの洗練された運搬システムを用いて、核兵器を急速に拡大している。
軍事的近代化や、公に宣言した軍民融合戦略の実施についてもその中身は不透明である。
また、ユーロ・アトランティック地域でのロシアの演習に参加するなど、ロシアと軍事的に協力している。
我々は、中国がしばしば透明性を欠き、偽情報を使用していることに懸念を抱いている。
我々は、中国に対し、国際的なコミットメントを守り、大国としての役割に沿って、宇宙、サイバー、海洋の各領域を含む国際システムにおいて責任ある行動をとるよう求める。
いかがでしょうか。日本の報道とはいささか趣が異なると感じられないでしょうか。
「国際的なコミットメントを守り、国際システムにおいて責任ある行動を取るよう」に散々いっても聞く耳を持たないからこのような状態になったのではなかったでしょうか。
『NATO』はあくまでも北大西洋条約機構で、中国から遠いという地理的要素が共同声明にも表れています。あまり直接的な脅威とは考えていないように見えるのです。日本は、ヨーロッパは対中国ではあまりアテにならないと考えるべきではないでしょうか。
中国版『NATO』への説教とは?
ただ、共同声明に「対中国」が明記されたのは事実です。
これに中国側も反応しています。中国共産党の英語版御用新聞『Global Times』に『NATO』へのお説教ともいうべき社説記事が掲載されています。
という大きなお世話なタイトルの記事です。
記事より注目ポイントを以下に引用します。
合衆国のジョー・バイデン大統領は、中国を封じ込めることを考えてヨーロッパを訪れた。
しかし、合衆国とヨーロッパでは、中国の影響力の急速な拡大について異なる見解と感情を持っている。
合衆国とヨーロッパの間のこの摩擦は、G7サミットから『NATO』サミットにシフトした。
『NATO』は軍事的結び付きであり、そこから中国に対立メッセージを送ることは、G7を介して行うよりも当然厳しいと考えられる。
そのため、合衆国に引きずり込まれたくないという欧州諸国の態度がより顕著になっているのだ。
(後略)
合衆国とヨーロッパの間にある「反中国の温度差」を突いた文です。その点を指摘して離間させようという言説ともいえます。
次の箇所は特に注目ポイントです。
合衆国が望んでいるのは、米中の緊張がさらに強まる限り、「西側の結束」だけでなく中国ととの対決姿勢が高まり、最終的に「孤立した中国」が崩壊することである。
(後略)
正しく正鵠を射ています。熱い戦争が望めないのであれば、最良の回答は中国共産党が自滅することだからです。
毎度のことながら結びの部分が見どころです。
『NATO』は中国問題でアメリカと手を結んでいない。
中国は、合衆国が『NATO』を通じて欧米の反中国の傾向を強めることを許してはならない。
合衆国の計画を崩壊させるために、より一層の努力が必要である。
いや、手は結んでいるのですが、確かに温度差があります。そこを突いて合衆国の目論見を頓挫させてやろうという意見表明です。さすが御用新聞の社説です。
(吉田ハンチング@dcp)